REPORT

「この町を大事に思えるキオスク」第1回 レクチャー


喜びを分かち合える場としての「商い」
「この町を大事に思えるキオスク」は、世界的建築家・伊東豊雄さんが主催する建築塾「伊東建築塾」による建築のクラス(今回で3年目となるこのクラス。昨年度の様子はこちらをご覧ください)。講師には、PERSIMMON HILLS architectsの廣岡周平さんとKASAの佐藤敬さんをお招きし、11回の授業を通じて実際に暮らしのなかにある売店「キオスク」のアイデアを実現していくことを目指します。

10月16日(日)に開講された第1回では、「この町を大事に思えるキオスク」というテーマを紐解くことでこれからの建築家像を掴みつつ、身の回りの素材を「商いの場」に見立てて造形することで建築をより自由に捉えていくことにも挑戦していきました。

 


「商い」から考える、これからの建築と町のあり方
町を大事に思う気持ちとはどのようなものでしょうか?暮らしのなかにある売店「キオスク」とはどのようなものでしょうか?そもそも建築家とはどのような仕事なのでしょうか?前半では、講師の方々の活動や世界の様々な商いの例を通して、「この町を大事に思えるキオスク」という今回のテーマを紐解いていきます。

例えば、佐藤さんが小石川植物園とともに主催している「小石川植物祭」。「建物を建てるだけではなく、美術館の学芸員のように、建築家が町をキュレーションするようなことができないか」という考えのもとに始まり、地域のお店やものづくりをしている人の活動が植物園とコラボレーション(例えば、染物屋さんが植物園の草木を使ったワークショップをしたり、洋菓子屋さんが植物を使ったお菓子を販売したり)することを通して、植物園を通して地域の人々が関わりあう「町の中庭」のような場を目指したのだと言います。「『小石川植物祭』では、集まった人と空間が連動することで『商い』が生まれていきました。今回の授業でもキオスクを考えていくことを通して、皆さんが持っている興味関心や問題意識をより広げていけるようなものになったらいいなと思っています」と、佐藤さん。

例えば、廣岡さんがリサーチの一環として普段から行なっている世界の様々な「商い」のスケッチ。ショッピングカートに果物を積んで、その場でジュースを作って販売するお店。信号待ちの道路を舞台に行われる大道芸。バスの中で演奏するヴァイオリニスト。人通りが多かったり、居心地が良かったり、おもいおもいの場所を見つけて商いを展開している例が紹介されます。それらに共通するのは「それぞれが自分の小さな幸せや喜びを大切にしていること」であり、同時に「町を大事に思うこと」にも繋がっていくのだと言います。「建築家として、建物を建てるだけではなく、それがどのように町で使われていくかというところにまで意識を向けていくことが大切だと僕は思っています。そもそも『商い』とは、自分が良いと思っているものを誰かに共感してもらいたいという想いから生まれるもの。だから、楽しんでもらうために工夫をしたり居心地のいい場所にしつらえたりする。そういうものの蓄積が、いい町を作っていくんじゃないかなと思っています」と、廣岡さん。

商いを通して町の中に新たな空間や地域の関わり合いが生み出されていく例をみながら、単にものを売る・買うというだけではないキオスクの可能性を感じていきました。

 


身近な素材を建築的に構成してみる
後半では、実際に手を動かしながら、生徒それぞれが「小さな喜び」を感じられるキオスクを想像していきます。材料は、葉っぱや石、パプリカ、キャベツ、ポテトチップスなど、身の回りにある様々な素材。手で触れた時の感覚や素材の組み合わせを意識しながら、小さな人形模型を使ってお店に見立てながら、それぞれが自由に発想を広げていきました。完成したら、みんなで発表会。作品とともに、それぞれ自分なりのこだわりや工夫を伝えていきます。

例えば、「映画を観るための空間を考えました。自分だったらリラックスしてじっくり鑑賞したいので、ワタのようなふわふわした素材で作った木の上で寝転がりながら映画を観ても良いのではと思いました」という生徒の声には、「思わず体を預けたくなるような心地よさのある空間。自分が感じた心地よさをちゃんと他の人と共有できる形にしているのがとても良いね」と。「私は普段から、建物の中に自分のお気に入りの場所を見つけるのが好き。だからいろんな色のセロファンを屋根に貼ることで、居る場所や光の入り具合によって空間の感じ方が変わるようにして、訪れた人が自分だけの場所を見つけられるようにしました」という生徒の声には、「自分の意思が作品に表れていてとても良いなと思いました。柱の並びに葉っぱが添えられていたり、いろんな色のステンドグラスの並びにカラフルな葉っぱが添えられていたり、そこにきちんと意図や批評性があるのを感じられました」と。一人ひとりの作品や発表に対して、講師の方々から深い洞察とフィードバックの言葉が贈られていきます。

「自分が良いと思ったものをどう引き立てて空間として作り上げるか。全部を形にしようとするのではなくて、要素を絞ってみることも大事」と講師のお二人が繰り返しコメントするように、自分の感じたり考えたりしたことの芯にあるものを研ぎ澄ませていくことの大切さを実感しているようでした。

 


次回は渋谷川でフィールドワーク
「この町を大事に思えるキオスク」は、渋谷川沿いを舞台にアイデアの実現を目指して活動をしていきます。次回は、実際に現場を訪ねて自分自身の心や身体が素直に反応するスポットを探していきながら、そこでの「商い」についても少しずつ構想を深めていきます。

 

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