「グラフィックデザインのパトス」第8回 翻訳としてのデザイン(後半)
街の風景を「翻訳」してビジュアルを作り上げる
様々なグラフィックデザイナーとともに、手を動かしながら全11回の授業を通して視覚表現を学んでいく「グラフィックデザインのパトス」。4月22日は、グラフィックデザイナーの岡﨑真理子さんによる後半の授業です。
前回の授業では、岡﨑さんのこれまでの創作物とそこに至るまでのプロセスに触れながら、コンセプトやテーマをビジュアルとして「翻訳」するための方法論に迫っていきました。それらを踏まえて岡﨑さんから提示された課題は、授業の舞台である日本橋を題材に「翻訳としてのデザイン」を実践すること。そこでは、街の風景やテクスチャから自分なりにキーとなる要素や構造を見出し、グラフィックデザインとして成立させていくための「ルール」を導いていくことが求められます。今回の授業では、その課題発表が行われました。
「偶発的なもの」を創作に取り入れていくためのロジック
しっかり感じる。感じたことを振り返りながら、頭の中で組み立てる。街の風景から自分なりにルールを見出していき、ビジュアルに落とし込んでいく作業には、様々なプロセスを経ていく必要があります。だからこそ、ビジュアルの創意工夫は、色や形といった目にみえるものだけでなく、それらのプロセスそのものの工夫でもあります。岡﨑さんからのフィードバックは、まさにそのプロセスにも向けられていきます。
例えば、「パトランプの写真を『動き続ける赤い光』と捉え、赤い服を着た妹に、携帯のライトを持って動いてもらうことでそれを表現しました。写真を1枚だけではなく、4コマ漫画のように並べることでその動きの様子を表しています」という生徒の作品に対しては、「ランプの光の動きを身体で置き換えるという発想が良いね。具体的にどのような動きなのか、もっと良く観察して細部にこだわって表現をしてみることでより良いものになるかも。これは写真だけど、パフォーマンスのように身の回りのいろんな物の動きをダンスにしてみても面白いかもしれない」と、岡﨑さん。
例えば、「ビルの窓に向かい側のビルが反射して歪んで映っている様子を『2つのもの同士が侵食しあって生まれる新しい風景』と捉え、トレーシングペーパーに印刷した風景写真を重ね合わせることで元の写真とは別の風景を作り出してみました」という生徒の作品に対しては、「異なった風景を重ねることで、ビルの反射で生まれる『偶然のイメージ』を再現しているんだね。元となる写真そのものはあまり加工しないフラットなものにして印刷する紙の素材を変えてみるとか、作為的な部分と無作為な部分とをそれぞれ作っていくことで、その偶然性をより際立たせることができるかもしれない。要素を絞り込んでいくことで表現が豊かになることもある」と、岡﨑さん。
「デザインのルール」を意識しながら街を歩くことで初めて気づく風景の面白さであったり、ルールをビジュアライズすることを通して新しい制作手法に挑戦してみたりと、「言葉やロジックに沿って作るのは、一見自分では思いつけないような、でも実は自分の中にある無意識的なイメージや偶然的なものを創作に取り入れるため」と言う岡﨑さんの言葉をまさに体感しているようでした。
論理と感覚を結びつけること
岡﨑さんの創作物と制作プロセスに触れながら、生徒の皆さんも街を舞台にその方法論を実践していった今回の全2回の授業。実際に手を動かしてその難しさを体感したからこそ、生徒に皆さんからは「デザインのルールを見出していくために特に意識していることはなにか」「どうやってその方法論に辿り着いたのか」など、岡﨑さんの創作について様々な質問が寄せられます。
「何かをみた時に、なんでそれが良いと思ったのかを深掘りして考えたりメモしたりするクセをつけること。そうすると、論理と感覚が繋がっていく。デザインをしていく上ではどちらかではなく、どちらもそれぞれ大切なものだと思っています」「私は元々建築を学んでいたこともあって、ロジカルに考えていくのが得意。そういった自分の特徴にフォーカスしていったら今のスタイルが生まれたのかもしれない。苦手な部分があってもそれを武器にできる」と、それぞれの質問に丁寧にじっくり答えてくれる姿が印象的でした。
<作品一覧>
次回は、誰かへの「贈り物」としてのデザインを考える
メイン講師の前原翔一さんによる「挨拶としてのデザイン」からスタートし、脇田あすかさんによる「編集」、平野正子さんによる「拡張」、岡﨑真理子さんによる「翻訳」と、講師の方々それぞれのデザイナー観に触れながら手を動かしていったこれまでの授業。次回はいよいよ、メイン講師・前原翔一さんによる最後の課題制作です。「贈り物としてのデザイン」というテーマのもと、誰かへのギフトとしてのデザインのあり方や役割について考えていきます。