観劇プログラム 第2回『ラビット・ホール』
観て話して、個々の演劇体験を深める場
演劇のクラス「新しい演劇のつくり方(第2期)」では『三月の5日間』(チェルフィッチュ)を原作とし、生徒の皆さんが新たな物語の戯曲を書き、演出し、演じ、発表していく授業が進められています。同時に、GAKUでは、10代と演劇との出会いをもっと広げていきたいと考えています。そこで、同授業の総合ファシリテーターでもあり演劇ジャーナリストの徳永京子さんによる「観劇プログラム」を開催しました。
第2回目となる今回の観劇作品は、GAKUと同じ渋谷PARCOの中にある「PARCO劇場」で上演された『ラビット・ホール』。幼いひとり息子を亡くした若い夫婦の再生を描くこの物語。トークゲストには本作の演出を手がけた藤田俊太郎さん、夫妻の夫役を演じた成河さんをお招きし、それぞれの本作品の感想や考察を交わし合いました。
50周年を迎えるPARCO劇場が「教室」に
アメリカにおける報道や文学や音楽の分野で卓越した業績に対して贈られる賞「ピューリツァー賞」を2007年に受賞した戯曲『ラビット・ホール』。家族間の日常的な会話を通して希望と再生を繊細に描いた傑作として知られ、2010年には、ニコール・キッドマンの製作・主演により映画化。今回1973年のオープンから今年で50年目を迎えたPARCO劇場で、「開場50周年記念シリーズ」として上演されました。
劇場に向かう前にまずは生徒のみなさんと徳永さんで自己紹介。それぞれの興味や活動、今日の観劇プログラムに期待することなどをざっくばらんに語りあっていきます。演劇をほぼ観たことのない人、毎月以上の頻度で観劇しているけど演技の経験はない人、高校の演劇部で戯曲を書いたり、地元の劇団に所属して俳優を目指している人。観劇への関心は共通項に、色々な背景の10代が集います。そんな10代のみなさんに向けて、「今日は、観劇を通して自分自身のなかにある言葉をゆっくりじっくり探っていく時間です。自分自身のなかにある答えに耳を澄ませるためにも、作品を鑑賞していきます。トークゲストの方が唯一の答えを持っているわけではないし、誰の意見が面白いかという競争する時間でもありません」と、徳永さんから、「観劇プログラム」の目指すところが語られました。
そして、いよいよGAKUの1階下にあるPARCO劇場へ。大きなエントランス、高い天井、赤いカーペット。2020年のリニューアルを経つつも、50年の歴史の中で、1300を超える演目を上演してきた演劇空間に、圧倒されながらも期待感が高まります。
自分の言葉をゆっくりじっくり探っていく
約2時間半の観劇を終えた皆さん。興奮冷めやらぬうちにGAKUに戻り、物語のあらすじや登場人物について確認しつつ、生徒のみなさん同士で感じたことをおもいおもいに口にしていきます。
「劇場が想像以上に大きくて立派でびっくりした」「舞台セットがすごかった」「俳優さんの演劇力に圧倒された」といった率直な感想から、自分自身の心象を探るように言葉にしていく様子もみられます。「悲しみから怒りへ、感情が動いていくのが印象的でした」「感情が伝染している感じ」「やり場のない感情が高まっていた」「登場人物はお互いに自分をさらけ出しているようだけど、コミュニケーションは成立していなかったような、、、」と、それぞれの感触が共有されていきました。
また、徳永さんからも「誰に感情移入できた?」「あのシーンのあの行動の理由はなんだと思う?」「あの登場人物のあの行動について拒否感ってあった?」など、問いかけを受けながら、それぞれの考察が深まっていきます。そういった感想の共有や深堀りの時間を過ごしていくと、まさに鑑賞した作品をつくられている藤田さんと成河さんに尋ねてみたいことや一緒に考えたいポイントが少しずつ明確になっていくようです。
終わりを知らないディスカッション
そこで、藤田さんと成河さんがPARCO劇場から駆けつけてくれます。生徒の皆さんの感想にじっくりと耳を傾けてくださり、時には「僕の役はみんなから見たらどんな印象?」「気になった演出のポイントはどんなところですか?」と質問も投げかけてくれるお二人。であるからこそ、感想や考察が重なり合ったり相互に刺激をしあったりの時間が続いて、ディスカッションが白熱してきます。
話したい。聞きたい。ディスカッションは終わりを知らず、GAKUは他のクラスの利用も入っていたため、急遽、PARCO劇場のロビーをお借りして、話し合いを続行します。
「演劇をつくる僕らも普段から延々とこういう話をしています。誰かの想像力から自分は影響を受けるし、自分の想像力も誰かに影響を与える。演劇に限らず、なにかを生み出す上で必要不可欠なこと。いつまでも皆さんのその想像力を自由に大切に使っていってほしいです」と、成河さん。
「観劇という体験は、映画鑑賞や、戯曲を読む、といった体験とはまた違っていると思います。『ラビット・ホール』はお客様が想像を膨らませる余地が特にある作品。皆さんの言葉、豊かな想像力に驚かされました。観客だけではなく演者とも時間を共にするこの劇場での体験を、楽しんでいただき嬉しかったです」と、藤田さん。
演劇をつくる側と観る側が車座になって考えを交わしていく機会そのものの大切さも感じられました。また、生徒のみなさんの中からは「早く自分も稽古したい!」などの声も聞かれるなど、新たなインスピレーションやモチベーションが湧く時間であったようです。
「観劇プログラム」は続いていきます
今回が2回目の開催となる「観劇プログラム」。実際の作品を生徒の皆さんと鑑賞し言葉にしていく活動に、GAKU事務局としても手応を強く感じています。また次回の開催にもぜひご期待ください。