「グラフィックデザインのパトス」第5回 拡張としてのデザイン(前半)
創作の可能性を広げていくための方法論
様々なグラフィックデザイナーとともに手を動かしながら、全11回の授業を通して視覚表現を学んでいく「グラフィックデザインのパトス」。3月4日は、ビジュアルアーティストの平野正子さんによる初回の授業です。
アートディレクション、グラフィックデザイン、3DCGを基軸に国内外で活動を行う平野さん。今回の授業では「拡張としてのデザイン」というテーマのもと、平野さんのこれまでの創作物やそのインスピレーション源をご紹介いただきながら、デザイナーとしてのリファレンスとの向き合い方を学んでいきました。
ルーツを深掘りすると、新たな表現の糸口が見えてくる
「今自分が持っているものだけで表現を完結させず、様々なリファレンスから自分の中にあるけどまだ現れていない新しいものを生み出していくこと」を日々挑戦されている平野さんのデザインの方法論を体感していくために、今回の授業で提示されたのは文字デザイン。普段身近にある文字という存在について新しい着眼を得ていくためにどのようなリサーチが必要なのか。リファレンスをどのようにデザインに活かしていけばよいのか。平野さんによる、歴史的に遡っていったり幅広く世界に目を向けたりするリサーチ方法もあわせて紹介されます。
歴史的に見るとはどのようなことか。例えば、世界最古の壁画とも言われている「ラスコー洞窟壁画」に描かれた文字や、占星術などに使われる星や惑星を表す記号「シジル」。現在より視覚情報が少なく、それぞれの身体感覚を通した「目に見えない情報」に敏感だった時代に使われていたこれらは、暮らしの中で身近にあったものを記号化したり、目に見えないものを想像して描き出したりすることでつくられているのだとか。平野さんは、「私たちが今当たり前に使っている文字はどんな意味を持っているのか。そもそも文字ってどのように生まれたのか。その成り立ちを深掘りしてみることで、新しい文字デザインのあり方や創作の糸口が見えてくるかもしれない」と言います。
幅広く目を向けるということはどのようなことか。例えば、「Aphex Twins」「Bjork」「Basic Channel」など、海外の音楽アーティストやCDジャケットのロゴデザイン。そのアーティストや楽曲の特徴をどのように表現しているか、CDやポスター、グッズといったそれぞれの用途に合わせたロゴの使われ方やバリエーションの付け方はどうかと、様々な観点からロゴデザインを考えていく一つの切り口になるのだとか。リサーチは深めれば広がるし、広げれば深まる。平野さんは、「デザインは必ず何かをリミックスして作られている。かっこいいと思ったデザインをそのまま参考にするのではなく、その作り手たちが何に影響を受けたのかを調べてみると、そのデザインの意味を深く理解できる」と言います。
そのほかにも、昔の企業広告で使われていた遊び心のあるロゴデザインや、スマートフォンが普及したことによるハイブランドロゴのあり方の変化など、ご自身が影響を受けていたり関心を持たれていたりするデザインのトピックを惜しみなく紹介してくれる平野さん。生徒の皆さんは、本クラスの題名でもある「グラフィックデザインのパトス(情熱)」の通り、アウトプットに向かうためのインプットとしてのリサーチへの情熱やその大切さが身に染みたようでした。
インプットとアウトプットを往復しながら作り続ける
デザインにおけるリファレンスを色々な角度から、シャワーのように浴びた生徒の皆さん。授業の終わりには、インプットとアウトプットのバランスの取り方や、自分らしい表現をどうやって見つけていくかなど、平野さんへ様々な質問が寄せられます。
「街を歩くだけでも、新しい音楽を聞いてみるだけでもインプットになる。いっぱいインプットして、作り続けていったらいいんじゃないかな。そして、作ったものをどんどん他の人に見せることも大事だと思う。グラフィックデザインは人に対してあるもの。いろんな意見をもらうこともインプットになるはず」と、平野さん。創作を進めていく生徒の皆さんへのエールの言葉で授業が締めくくられました。
次回までの課題は、自分のシンボルになるロゴ
次回までの課題は、文字デザインとしての「自分のシンボルになるロゴ」を作り上げること。今回の授業を踏まえ、ロゴデザインの可能性をそれぞれが探っていきながら、自分自身を表現することに挑戦していきます。