REPORT

「グラフィックデザインのパトス」第3回 編集としてのデザイン(前半)

デザインにおける編集という考え方
様々なグラフィックデザイナーとともに手を動かしながら全11回の授業を通して視覚表現を学んでいく「グラフィックデザインのパトス」。2月11日は、アートディレクター・脇田あすかさんによる初回の授業です。雑誌『装苑』の誌面デザインやZUCCaのムック本などを手掛け、個人でアートブックなどの作品制作も行う脇田さん。今回の授業では「編集としてのデザイン」というテーマのもと、脇田さんのこれまでの創作物に実際に触れながら、デザインにおける編集の考え方を学んでいきました。

 

手を動かしづつけることの大切さ
はじめに、脇田さんのこれまでの活動の紹介。学生時代からプロダクトブランド「pink pepper」を立ち上げたり、個人でのアートブック制作や展示をコンスタントに行われていたりと、クライアントワークと並行して様々な活動や創作を進められています(今年で7年目を迎える「pink pepper」では、毎年テーマを決めて新たなデザインを制作することをご自身に課しているのだそう)。今回は脇田さんご自身が手がけたアートブックの現物を持参してくださり、それらを実際に手に取る機会にもなりました。その中には、学生時代につくられたものや実際に出版されているアートブックのプロトタイプになったものも。特に、同じ内容をもとにそれぞれ異なった編集方法で制作されたという2冊のアートブックからは、今回の授業のテーマとの関連性も感じられます。貴重な創作物の数々を前に、緊張と興奮の入り混じった生徒の皆さんの表情がとても印象的。そういった脇田さんの活動の背景に触れていくことで、手を動かし続けることの大切さを生徒の皆さんも感じている様子です。

学生時代に大切にしていたこと。やっておくべきこと。生徒の皆さんからは様々な質問が寄せられます。「とにかくいっぱい作って、いっぱい発表すること。『こういうの作りたいな』と思ってるだけで終わらせない。作ったものを作りっぱなしにしないで、展示したり発表したりする。無理やり発表する機会を作って、そこに向けて作るということも大事だと思う」と、生徒の背中を押してくれるようなコメントが贈られていきました。

 

「編集としてのデザイン」にとりかかるためのウォーミングアップ
「どのような状態で人に見せたり伝えたりするのがいいのかを考えること」がデザインの役割であり、そのためには「編集的な目線」が必要だと脇田さんは言います。そういったご自身の考えから、次回の授業に向けて出題される課題は、ビジュアルを一枚の絵ではなく「冊子」としてデザインしていくというもの。今回はそのウォーミングアップとして、生徒の皆さんそれぞれが「丸」をテーマにしたビジュアルブックを即興で制作することに挑戦しました。

完成したらみんなでお披露目。「紙をちぎってできた丸、ペンでバーっと描いた丸、色々な方法で丸を描いて、丸の形の面白さを探ってみた。冊子にするときは、めくっていて心地よいようなページの流れを意識して構成してみました」「いろんなフルーツを抽象化して丸で表現してみた。その絵の裏にフルーツの名前があるという構成にして、ページをめくりながらクイズみたいに遊べるようにしました」「丸が水の中に落ちて沈んでいく様子を、ページをめくることで表現したいと思った。パラパラとめくるだけではなくページ全体を眺められるように、一つの角で紙を束ねて扇子状に開けるよう製本しました」と生徒の皆さん。「丸」から連想されるイメージとともにそれらの構成や製本の方法まで、そのイメージを表現するようなビジュアルブックが発表されました。

 

インプットとしての懇談会
授業の中では、生徒の皆さんそれぞれが影響を受けた一冊を持ち寄って読み合ったり、脇田さんご自身が実際によく足を運ぶというアートブックや古本、ZINEを取り扱っている書店を紹介いただいたりと、それぞれのインスピレーション源を共有し合うする時間も設けられました。

「いっぱい良いものを見る。そしてなんでそれが好きなのかをちゃんと考えること。時には、好きなものを真似してみることも大切だと思う。真似するためには、そのデザインのどんな部分に惹かれているのかを理解してないとできない。学生時代にはその精度をあげていくことを特に意識していた」と脇田さん。生徒の皆さんは今回の授業を通して、デザインにおける「編集」の視点の重要性とともに、その材料となるインプットの大切さも体感していったようでした。

 

次回までの課題は50ページ以上の「日本橋散歩ビジュアルブック」
次回までの課題は、授業の舞台となっている日本橋の街をテーマにした「日本橋散歩ビジュアルブック」を作り上げること。脇田さんから提示された最低ページ数はなんと50ページ。2週間という限られた制作期間の中で、それぞれが街のどんな風景や特徴に着目し、それらをどのようにページとして構成していくか。本作りを通して、授業タイトルでもある「編集としてのデザイン」を生徒の皆さんそれぞれが実践していきます。

 

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