REPORT

「東京芸術中学(第2期)」 第21回 片山真理さん


『ハイヒールプロジェクト』を通して考える作家と作品の関係性
編集者・菅付雅信さんと13人の世界的クリエイターによる『東京芸術中学』。10月8日(土)は、アーティストの片山真理さんによる1回目の授業です。

手縫いのオブジェや立体作品、装飾を施した義足を使用したセルフポートレートを制作する片山さん。今回の授業では、片山さんがそれらの制作と並行して進める、義足用ハイヒールをつくる『ハイヒールプロジェクト』という作品を紐解き、作家と作家が生み出す作品の関係性を探っていきました。




作品って誰のもの?
「作品って誰のものだと思いますか?」。授業の冒頭、片山さんから生徒の皆さんに質問が投げかけられます。オブジェを縫い、撮影し、それが本になり、インターネット上にも画像が掲載され、誰でも片山さんの作品の画像をダウンロードができる今。そんな問いがふとよぎったそう。生徒の皆さんからの回答も、つくった人、買った人、インスピレーション源になった人、世界中の人のもの、など様々でした。




『ハイヒールプロジェクト』は誰のもの?
「作品って誰のものだと思いますか?」という問いを通して、『ハイヒールプロジェクト』を考えていくと、片山さんのこの世界での生き方や葛藤が迫ってきます。大学時代のステージに立つアルバイト中、ハイヒールを履いてこなかったことを泥酔客に指摘された片山さん。「諦めていたことを目前で指摘されているようで悔しかった」そう。そんな出来事をきっかけに、2011年から義足でハイヒールを履いてステージに立つことを目指したプロジェクトが始動しました。

多くの専門家が携わり、なんども試行錯誤を繰り返して完成した義足用のハイヒールは完成。しかし、そこで片山さんが感じたのは、分かち合えることの喜びとともに最後まで残る分かち合えなさ。福祉の世界では「義足で歩けるようになったら社会復帰」とされ、義足でハイヒールを履く(もしくは履かない)という「選択の自由」までは保証されない実情に違和感を感じたからこそ、ご自身でも「極端」と形容される、「ハイヒールを履いてステージに立つこと」にこだわったと言います。ハイヒールプロジェクトはそこから片山さんの代表的な作品に派生。自ら小さなハイヒールを作り、義足をつけない状態で着用したセルフポートレート作品で木村伊兵衛賞を受賞し、ヴェネチア・ヴィエンナーレに出展。その後イギリス国立の近現代美術館Tate Modernに収蔵されたそう。さらにはハイヒールにも適した義足の開発や、イタリアのラグジュアリーシューズブランド「SERGIO ROSSI」(セルジオ ロッシ)による新たなハイヒール制作まで、プロジェクトも規模が大きくなっていきました。

分かち合えない気持ちが原動力だった『ハイヒールプロジェクト』は、結果的には国内外のアワードの受賞やアートの領域を超えたコラボレーションを生み出し、片山さんの当初の予期を超える広がりを見せていきました。そこで、片山さんは生徒の皆さんにもう一度「作品って誰のものなんだろう?」と問いかけます。


離れることと渡ること
「私の作品がTate Modernに収蔵された時、ある方から『作品が遠くに行っちゃうようで寂しい』って言われた。『ハイヒールプロジェクト』は遠くイタリアの人々が受け継いでくれて、もう私のものではなくなっています。作品は作家の手を離れることによって作品として成立するんだな。今はそんな風に腑に落ちています」。大きな問いに対して、今の片山さんなりの答えを生徒の皆さんに提案し、講義を締めくくってくださいました。


じゃあ、誰のものでもないものってなんだろう?
「私の作品は誰かのものになったと思う。じゃあ、逆に『誰のものでもないもの』ってなんだろう?そもそもあるのかな?」そんな片山さんの新たな問いかけで、次回の課題が決定。生徒の皆さんそれぞれが「誰のものでもないもの」について考え、自由な形式で発表を行います。

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