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「CO-CURATING」企画展『夜明け前の中で』(前半)


8名の生徒がキュレーションする企画展を有楽町で開催
「CO-CURATING」はThe 5th Floorキュレーターの髙木遊さんと岩田智哉さんによる、キュレーションをテーマとしたクラス。アーティストの方々とも交流を重ねながら、2023年4月からの全11回の授業を通して生徒全員で企画展の制作を進めていきました。

10月27日(金)から29日(日)には、その半年間にわたる成果の発表の場として、8名の生徒がキュレーションする企画展『夜明け前の中で』を開催しました。建て替えが予定されている「有楽町ビル」の元々オフィスフロアだった場所を舞台に、全6名のアーティストの方を招き、生徒それぞれがキュレーションする作品展示やトークイベントやWSを実施。3日間という短い期間ではありましたが、総勢300名以上の方々にご来場をいただきました。

ここでは、展覧会の実施風景とともに会場にて作品に添えて掲示された生徒の皆さんによるキャプション等をご紹介します。

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髙橋銑 《腐色符》2023年/銅網


髙橋銑 《腐色符》2023年/銅網

本作品では、銅でできた目の細かい網により、人物の顔の形がとられています。これらの顔の持ち主は、この展覧会の関係者たちです。顔の持ち主、銅網、銅網を顔に押し当てるもう一人の人物、というシンプルな組み合わせで制作されています。

しかし、顔との接触はおのずとセンシティブにならざるを得ず、本作品においても、形が厳密にとられている部分と、緩くなってしまった部分とがあります。本作品には、顔の持ち主と形をとる人物との親密さの度合いや緊張感など、制作時の関係性が刻まれています。

また、銅に付着した手や顔の皮脂により、十年後から二十年後にかけて、緑青が発生します。たとえば、古い十円硬貨や鎌倉大仏などの銅を主成分としたものに、長い時間の経過と共に銅が腐食し、緑青が発生している様子を見ることができます。緑青が現れることで、制作時にはわからなかった顔や手の表情が明らかになります。しかし、今回の展覧会では、その変化を誰も目撃することができません。本作品が十年後、二十年後、もっと先の未来でどうなっているのか、想いを馳せながら鑑賞することになるでしょう。

(キュレーター:白水陽)

 

中村菜月


中村菜月

美術作家。詩の領域についての探求と制作を行う。
詩の領域-内包された意味の外側の景色は、窓となる絵や言葉など様々な手段を辿り世界に現れる。
繊細でありながらも切実な祈りとともに作り上げられた作品は、訪れる人それぞれの生活の距離に寄り添うように存在している。
この展示では、暗い中、手元のランプを使い作品を照らし鑑賞するという形をとることで、鑑賞者が主体となって作品と向き合い、双方向の対話を可能にすることを目指している。
カーテンをひいて、街の喧騒や、時間の経過など外側の変化から一時的に守られた空間で、いつもは無駄であるかのように取り残されてしまう世界について目を向ける、あたたかな時間を過ごしていただければ幸いです。

(キュレーター:との)

 

古石紫織


古石紫織

古石さんの作品は、どこか懐かしさを感じさせる雰囲気と、明るくて爽やかな希望を匂わせる光に満ちています。

屋外や風景を描いていて、それはどこかで見たことのあるような景色ばかりです。
それは古石さんの「記憶の旅を味わってほしい」という想いがあるからです。
記憶の中にある景色と作品とが結びついて、絵の世界に入ると、記憶の中から、どこかで感じた匂いや風や音が思い出されます。

つまり、絵を通して自分自身の記憶の中を旅しているのです。
また、古石さんは作品のテーマとして「光」を大切に描いています。
光が差している様子や、煌めいている様子を描くことで、未来への希望を期待させてくれます。

今回の展示では、見にきてくださった皆さんそれぞれが、お気に入りの1枚と出会えるよう2012~2023年まで、大きな作品から小さな作品まで、制作年もサイズも異なる作品を集めました。
過去と未来の記憶の旅をお楽しみください。

(キュレーター:高橋七彩)

 


日本画について

「日本画」とは、日本の伝統絵画のことで、主に紙や絹などに岩絵具や胡粉を使って、膠(にかわ)を接着材として描く技法が用いられています。私は古石さんの作品と出会うまで、日本画というものについて考えたことがありませんでした。

古石さんの作品と出会ったのは、学校のインテリアコーディネートの課題で住宅に飾るアートを探している時でした。ネット上でいろいろなサイトでアートを調べていると、画面越しでも一瞬で惹かれる作品がありました。それが古石さんの作品です。優しくて、穏やかで、爽やかで、明るくて、心がすっきりする絵でした。

展示のキュレーションをする中で、古石さんのお話を聞いたり、日本画について調べたり、画材屋さんに行ってみたりしました。そこで、日本画をもっと知りたい、もっと知ってほしい、そう思い、自分でも日本画を描いてみることにしました。

普段絵を描かない私には、簡単に描き始められる初心者キットを使ってもあまり上手に描くことはできませんでした。下絵を細い線で描けなかったり、乾かないうちに絵具を重ねてしまったり、実際に描いてみると、想像していた何倍も難しくて大変でした。描いて、乾かして、描いて、乾かして、を繰り返して、たくさん時間をかけて描きました。

日本画は、同じ絵具でも粗さによって色が変わったり、絵具や箔を重ねることで色が透けたり、他の絵画とは違った面白さがあります。今回の展示では、遠くから絵の全体を見るだけでなく、是非近くで、日本画ならではの表現を感じてください。

※初心者キット
ナカガワ胡粉絵具 岩絵具初心者キット 燕子花編

<画材について>
岩絵具:鉱石を砕いてつくられた粒子状の絵具。粒子が粗いほど鮮やかな色になり、細かいほど白っぽい色になる。
水干絵具(すいひえのぐ):天然の土や白土を染めつけた粒子状の絵具。
泥絵具ともいう。
胡粉:貝殻でつくられる白色の絵具。
乳鉢:胡粉や水干絵具をすりつぶすための鉢。
絵皿:岩絵具や水干絵具を膠で練る際に使う皿。
膠(にかわ):動物の骨・皮・腸などを水で煮た液を、乾かして固めたもの。粘着材として使う。
筆、刷毛:色をのせたり線を描くのに使う。動物の毛を用いたものが多い。
箔:金属を薄く延ばしたもの。
竹箸:箔を扱うための箸。
砂子(すなご):箔を粉末状にしたもの。
和紙:岩絵具や膠との相性がよく、耐久性に優れているため、日本画によく用いられる。

(キュレーター:高橋七彩)

 

ロバート・ボシシオ


ロバート・ボシシオ

故郷であるイタリアの自然豊かなトローデナを中心に活動するアーティスト。ベネチアのLa Fenice賞をはじめとした数々の賞を受賞し、2021年にはベネチアのビエンナーレでのイタリアンパビリオンで展示を行うなど世界的評価が高い。映画監督であるヴィム・ヴェンダースとの親交も深く、彼の作品を多くコレクションしている。

ボシシオの作品は、人や空間といった誰もが知る普遍的なテーマを描く。
様々な素材が何層にも重なって描かれるその作風は、どこか全容の掴めない、鑑賞者へその先の景色を想像させる独自のものだ。

また、彼の作品は部屋の明るさ、距離、角度、鑑賞者が持つ色についてのイメージや気分など、様々な事象によって、鑑賞者のその先の景色や表情の変化を委ね、神秘的な雰囲気の中での自己との対話へと誘う。

この展覧会では、来ていただいた皆様に自由に作品を鑑賞していただき、夜明け前の、変化を待つ時の中で、作品との対話を通してその先の光景である本質を見る体験をしていただけると幸いだ。

(キュレーター:松本神奈)

写真クレジット
展示風景:Naoki Takehisa
トップ画像・キュレーターポートレイト:GAKU

 

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