REPORT

「Beyond the Music(第2期)」第3回 音楽と建築


音楽家のために設計された「伊藤邸(旧園田高弘邸)」での出張授業
音楽を通じて、言語、文化、歴史、物理、民族、テクノロジーといった、他の領域への学びを深めていく「Beyond the Music」。WONK/millennium paradeキーボーディストの江﨑文武さんが総合ディレクターを務め、授業ごとに幅広い分野で活躍する方をゲスト講師に迎えます。

5月29日(日)には、第3回授業「音楽と建築」を開講しました。今回は、建築家の吉村順三さんが音楽家の園田高弘さんのために設計した「伊藤邸(旧園田高弘邸)」を訪れての出張授業。この建物は、クラスを主宰する江﨑さんがご自身の作品「薄光」のMV撮影の舞台として使用した場所でもあります。音楽家はなぜこの建築を選んだのか。建築家は、どのような想いを込めて設計したのか。ゲスト講師には建築家の花摘知祐さんをお招きし、実際に「伊藤邸(旧園田高弘邸)」の空間に身を置きながら、音楽と建築の関係性を紐解いていきました。

 


音楽と共にあるための空間を体感する
「音楽ホールやスタジオのように、演奏する空間って閉塞感のあるイメージだけど、この家はどの部屋にも窓があってすごく開放的な感じがする」「部屋によって空間の大きさや天井の高さが全然違う。普通の家では珍しい気がするけど、これは音環境を考えた空間づくりなのかな?」と、授業のはじめには、「伊藤邸(旧園田高弘邸)」の建物内を見学しながら、それぞれの気づきや疑問をシェアしていきます。

 


異なるジャンルの重なり合いを学ぶ
音楽家のためにつくられた建築を実際に体感した後は、音楽と建築の関係性を紐解いていきます。「音階(ドレミファソラシ)を表す『ピタゴラス音律』は、数学の方法論を元に生み出され、後にその比率を応用した建築もつくられている」「ルネサンス時代には、建物の空間比率を使った音楽が作曲されていた」など、音楽理論や作曲に建築的な考え方が使われていること。「教会の建物の材質・大きさが変化したことによって、聖歌の曲調が変わっていった」ように、音楽が空間の音の響き方の変化に強く影響を受けていること。「伊藤邸(旧園田高弘邸)」の見学で生まれた生徒のみなさんの質問も時にカバーしながら、歴史的な発展をみていくことで予想以上に音楽と建築が密接な位置にあることが明らかになっていきます。

それらの音楽と建築の歴史的な関係性を、現代の建築家はどうみているのか。音も環境の要素として捉えて建築を進めている花摘さんがご自身の仕事の一部を紹介してくれます。例えば「オルタナティブトイレ」では、みんながストレスなく使用できるようにするために、音響の技術を使ってトイレ内で発生する音の不快感をなくすという構想もあるのだとか。人にとって居心地の良い空間を作っていくために「音環境」を考えることは欠かせない要素なのだと言います。近年手がけられた「ドバイ国際博覧会日本館」の模型の現物も特別に持参をしてくださり生徒のみなさんの目の前に。「大きい建築物を考えるときはどこから手をつけるのか?」など、建築家の仕事への関心も喚起されたようでした。

 


歴史から学んで現在に活かす
「僕が所属している『WONK』では、曲のレコーディングを各々の家で行なうことがあります。その時に、『押し入れのなかは音がいい!』とか、家のいろんな場所の音の響きを感じることがあって。同じ家の中でも場所によって全然違うんです。自分の部屋にじゅうたんを1枚引くだけでも、実は音の響き方は変わる。楽器を演奏するときや音楽を流すときに、その空間の音環境についてを意識することで、音楽体験の可能性が広がっていくと思うし、普段生活する時とは全く違った空間の見方が生まれてくるはず。ぜひ試してみてください」と、文化財のような会場で学びを深めていった今回の授業ですが、その学びは生徒のみなさんの日々の暮らしのなかでも応用できるものだと江﨑さんは最後に強調されていたことが印象的でした。

 


次回は、視覚芸術を通して音楽に迫る
第4回授業のテーマは「音楽とグラフィックデザイン」。ゲスト講師には、 millennium parade / PERIMETRONでアートディレクター・グラフィックデザイナーとして活動されている森洸大さんをお招きし、音楽と視覚芸術の関わりを学んでいきます。授業の生徒募集は近日開始予定です。GAKUウェブサイトおよびSNSにて発信していきますので、ぜひご覧ください。

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