REPORT

「新しい演劇のつくり方」最終回


授業最終回としての公演発表
演劇集団「範宙遊泳」代表、劇作家で演出家の山本卓卓さんと13名の10代の生徒のみなさんが、山本さんの代表作『うまれてないからまだしねない』の世界観をベースとした新たな演劇の制作・上演を目指す「新しい演劇のつくり方」。2月20日は第7回授業を開講しました。

演劇制作のプロセスを脚本、演出、演技の3つの要素に分けて捉え、それらを全員で実践しながら1つの作品をつくり上げてきたこの授業。今回は最終回として、公演会として作品発表をしつつ、これまでのプロセスを振り返る時間となりました。授業実施にあたって実施したクラウドファンディングの支援者の方々や、トークイベントをご一緒させて頂いた東京学芸大学芸術・スポーツ科学系音楽・演劇講座演劇分野准教授の高尾隆先生、演劇ジャーナリストの徳永京子さんにご参加いただき、まさに「新しい演劇のつくり方」を確かめ合うような機会でもありました。





「新しい演劇のつくり方」は、演劇としてどうだったか?教育としてどうだったか?
今回の公演は当初の予定を4倍以上上回る20ページ以上の脚本を演じるもの。オンライン配信も同時に行っていきます。画面の向こうにいる観客の方々にもこの作品を届けていくことも考慮しながら、生徒のみなさん主導のもとで開演直前まで稽古が続きます。生徒のみなさん同士の活発なやりとりからは、集団で創作することの意味や意義への理解がより深まっている様子が伺えました。




生徒13名と山本さんによる40分に渡る公演。カーテンコールを終え、熱も冷めやらぬままアフタートークとしてみんなで車座になって感触や手応えに言葉を与えていきます。ゲストとして徳永さん、そして高尾先生にも輪に加わって頂き、話が広がっていきます。

生徒のみなさんからは、「集団創作していく上で、自分を閉じ過ぎないこと、自分を隠しすぎないことが大切ということが大きな発見だった。このことは演劇だけではなくて、日々の中でも忘れたくないなと感じた」、「あるメンバーからの『生きてる時って、どういう時だと思う?』という踏み込んだ質問がこの作品を完成まで導いたと思う。こんな話をする機会はなかったからとても面白かった」、「授業を受けるまで、演劇は自分が踏み入れる領域ではないと思っていた。だけど実際にやってみて、演劇は今まで自分が考えてきたことややってきたことと全くの別モノではなく、共通するところが沢山あることがわかった」など、それぞれが自分自身の言葉でこれまでの体験を意味づけしている様子がとても印象的でした。

高尾先生からは「初舞台の方、まずは初舞台おめでとうございます。初めての演劇が『新しい演劇のつくり方』であることはとても貴重な機会。そして、これまで演劇を経験していた方も、これまでの演劇観とは全く違うものに触れられたんじゃないかと思います」とエールが贈られ、徳永さんからは「山本さんの作品の特徴として、非現実的とも思われる設定の中でありありと感じる切実さがあると思います。今回の作品でもまさにそれが感じれましたし、さらには、10代の方々にとっての身を切るほどの切実さをとても感じることができました」と、講評を頂きました。



創作ができあがること、集団ができあがること
作品の良し悪しの前に、創り手そのものがどうあるべきか。それが山本さんの課題意識の1つでした。その意味で、集団創作となる今回の授業において、創り手である生徒のみなさんとどのような「集団」を構成していくべきかということが大切な要素でした。そのため、授業時間外のコミュニケーションも大切にされ、チャットなどで生徒と山本さんが直接やりとりができるような環境も用意がされていました。とはいえ、より良い「集団」であるためには様々な試行錯誤がありました。

「『自分からみんなには連絡しない』と決めていたんです。だって目上の人から連絡って緊張感があるじゃない?でも、そうしたら全員が自ら僕に連絡をくれて、それぞれと制作にまつわる深い話をすることができたし、それが脚本にも反映されていきました。僕自身にはない考え方や発想に驚かされながら色々な学びのある時間でした。振り返ってみると授業の時間もそうですが、そのような授業外の時間がとても大切だったように思います」という山本さんの言葉からは、「新しい演劇のつくり方」が、ばらばらな個々がそのままに集まる「これからの集団のあり方」を検討するものだったようにも感じられました。


もっと演劇の現場に10代と飛び込んでいく
GAKUとしてはじめての演劇のクラスは、クラウドファンディング、トークイベント、公演会などを通して、多くの方々に支えられて実現することができました。「発声技法などの稚拙さはあれど、脚本の完成度も含めて素晴らしいものなので是非再上演したら良い」「演劇教育が実践される機会は少ないので続けたほうが良い」など、多くの反響を頂いています。まずは10代の皆さんを無料で劇場に招待し、感想を語り合う「観劇ツアー」の実現に向けた準備を進めています。ぜひご期待ください。

*山本卓卓さんはこの公演の翌週に2022年岸田國士戯曲賞を受賞されました。本当におめでとうございます!!!

 

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