「新しい演劇のつくり方(第2期)」 第7回 戯曲づくり(執筆)
書き進めた戯曲を発表する
「新しい演劇のつくり方」は昨年度に続いて開講となる演劇のクラス。今年度は演劇カンパニー「チェルフィッチュ」を主宰し、このクラスの総合ディレクターを務める岡田利規さんによる『三月の5日間』を原作とし、中高生である生徒の皆さんが新たな演劇作品を戯曲からつくっていきます。
3月19日(日)の第7回授業は、それぞれの班で書き進めていった戯曲を発表。総合ディレクターの岡田さんもお迎えし、それぞれの戯曲に込められた想いを伝えていきました。
戯曲の方向性が見えていく
授業では早速戯曲を発表。班で1つの戯曲を書き進めたり、班のメンバーそれぞれで書き進めたり、未完成な物も含めて計7つの戯曲が集まりました。これらを1つの戯曲にまとめるため、どんなところに重なりがあるのか、どんな演出なら舞台上で実現できるのか、そんなことも一人一人考えながら、発表に耳を傾けていきます。班ごとに、岡田さんや笠木さんからフィードバックが贈られます。
「たくさんの人がいたけど空っぽのようにも感じた渋谷の街が気になる」と、フィールドワークを行った第5回授業も参考にしながら、登場人物の1人として「渋谷」という街に人格を与えていた班の戯曲に対して、「とても演劇的なテキストだと思う。これを上演する時、きっとここに渋谷が表れる。そして、終わったら消える。その場にいる人たちが一つの幻想を共有できる。僕はそれが演劇的だと思うし、このテキストにはそれが起こっている」と岡田さん。
「どこからが演劇かをわからなくしたい。演劇の構造そのものを疑いたい」と、『三月の5日間』が生み出した演劇観に呼応するように、即興でリアルな自己紹介からはじまり、そのまま実際に渋谷で起きた事故についてディスカッションが始まるという班の戯曲に対して、「演劇が始まっているのかその手前なのか、境界を曖昧にさせる可能性を持っているテキスト。だからこそ、1つの戯曲にまとめあげていく際にも強く影響を与えると思う」と笠木さん。
「他者を見つめて話すこと、他者と生きていることを知ることが、人が生きやすくなる唯一なのではないか」と、登場人物がそれぞれに好き勝手に言葉を投げかけ会話が成立しない状況が続く中で、唯一、AIだけが呼応をするという逆説的な戯曲に対して、「作品として心から素晴らしいと思う。まるで血みどろの腸がどんどん引き出されているかのような感じ。あなた自身の言葉で書かれていることがとても大切なんです」と、岡田さん。
7つの戯曲の発表とフィードバックには熱もこもりつつ、時に笑いも出るもので、生徒の皆さんも、講師の岡田さんや笠木さんも楽しんでいる様子がとても印象的でした。「モババ(モバイルバッテリー)」「バ先(バイト先)」「ガチャ(引き受けなければならない偶然性)」「丸サ進行(椎名林檎の楽曲『丸の内サディスティック』のコード進行を真似すれば良いと思っていそうな曲)」など、10代だからこそのリアルな言葉についても、発見が多いものでした。
作品に血が通うという感覚
「皆さんの作品はちゃんと声をもっている。言葉を声にできている。声っていうのは、血が流れている言葉。この言葉を切ったら血が出てくるような感じがする。素晴らしいです」と岡田さん。「これからのプロセスを味わうことはものすごく面白いことだと思う。ごろっと素敵な材料たちが転がっている。1つにまとめることはきっと大変だけど、 何か一つのゴールを迎えていきたいなと思う」と笠木さん。7つ全ての戯曲の発表を終え、講師のお二人から言葉が贈られました。
次回は、戯曲の完成発表
発表会を経て、それぞれの戯曲の演出案を提案するなど、授業後にも議論が盛り上がってく様子。次回は笠木さんと有志の生徒の皆さんがこの7つの戯曲を1つの戯曲にまとめたものをお披露目予定です。