REPORT

「農暮らす/ agri class」第3回 綿花と水


現在のファッションの問題を捉え、未来のファッション像を探る
食やファッション、宇宙まで、様々な分野の専門家やクリエイターと10代がこれからのクリエーションとサステナビリティのあり方を展望していく「農暮らす/ agri class」。1月16日は「綿花と水」をテーマに第3回授業を開講しました。

今回の講師は、アップサイクルブランド「Felix House」のデザイナーの石川クリスさん、JAXA第一宇宙技術部門地球観測研究センターの山本晃輔さん。山本さんによる講義では、ファッション産業が引き起こす綿花による環境問題を宇宙からの視点も交えて体感し、その解決の糸口を考えます。続くクリスさんのワークショップでは、実際に古布を利用したアップサイクルなアイテムをつくりながら、これからのファッションのあり方そのものを探っていきました。




宇宙から見据える「綿と水」の問題
JAXAの山本さんによる講義から授業はスタート。まずはじめにファッション産業が地球に及ぼしている環境問題の数々を捉えていきます。中でも今回着目したのは、綿のTシャツ1枚をつくるのに2.7トンもの水を消費するという「綿花と水」の関係。衛星が日頃から観測している水の量やその分布を捉えた情報を深掘りしていくと、そもそも人間が使える水の量は地球上のわずか0.01%分しかなく、しかもその分布には非常に偏りがあるという現状が見えていきます。講義を通して、「このまま服をつくり続けると地球の水がどんどん足りなくなってしまう」、そんな危機感を共有していきました。



解決の糸口は身近な服にある
生徒のみなさんが目の当たりにしたファッション産業の問題は、服を大量に生産するファッション産業だけの問題ではなく、「服を大量に消費している私たち消費者にも大きな要因があり、それは社会全体のシステムそのものの問題」と山本さん。そして、その解決方法の一つは「一着を大切に着ること」と言います。そこで講義中にはそれぞれの大切な服を持ち寄ってそれらのエピソードを紹介し合う時間が設けられました。

「これは大好きだった古着屋さんで一目惚れしたTシャツ。もうそのお店は無くなっちゃったからこそ、今でも大切に着ています」、「この布は祖母が着物として大事に着ていたであろうもの。だから代々受け継いでいきたいと思っているんです」。エピソードを相手に紹介していくうちに、その服やその服にまつわる誰かに対する自身の想いに改めて気づき、「なぜこの服を大切にしているのか」という理由を自らの言葉を通じて再確認する時間となりました。





今、本当にクールなのは「優しさ」
授業の後半はデザイナーのクリスさんによるワークショップです。2020年までニューヨークでテキスタイルデザイナーとして活動していたクリスさん。ファッション業界の最前線とも言える環境で「こんなに沢山の服を作って環境にはどんな影響を与えているんだろう?」と疑問に思ったことをきっかけに、捨てられるはずの服に「はなまる」のデザインを施すアップサイクルブランド「Felix House」を立ち上げたと言います。

「今は見た目がクールなファッションなら誰でも作れる時代。でも、今本当にクールなファッションはその根底に『優しさ』があると思っています。そしてその『優しさ』を具体化したアイテムがハンカチ。言葉がわからなくても、知らない人であっても、悲しいときにハンカチを差し出されたら暖かい気持ちになりますよね?そんな想いも一つのアイテムを大事にする理由になると思うんです」。そんなクリスさんのコメントと共にスタートしたワークショップでは古布などを利用したオリジナルのハンカチ作りに挑戦します。

「大好きだよ」、「一緒にいて心地いいな」、「絆創膏貼ってあげるね」。生徒のみなさんはもちろん山本さんも一緒に、自分がこれまで投げかけられた優しい言葉をキーワードに、その言葉を布に書いたり、新たなモチーフに描き起こして刺繍をしたり。自分に優しい気持ちを思い出させる、そしていつか誰かに差し出すかもしれないハンカチを思い思いの方法で完成させていきました。


大きな変化は小さな変化からしか生まれない
「環境問題も、宇宙からの観測データを踏まえると、その変化や実像がよくわかってくる。宇宙って普段の生活に関係ないように思えるけども、目の前の課題を解決するときの手助けにもなるはずです。」と山本さん。「大きな変化を起こすにはまずは小さな変化を起こさなくちゃいけない。今日挑戦したアップサイクルとしてのハンカチを作ることも小さな変化の一つです。このプロジェクトを通して、あなた自身がファッションへのアプローチを変えようと思えれば、少しずつ社会も変わっていくと思っています」とクリスさん。それぞれの専門分野をベースとした講義とワークショップを終え、講師のお二人のこんなコメントで締めくくっていただきました。


これからもファッションを楽しむために
ファッション産業が引き起こす「綿花と水」の問題を捉え、その解決の糸口としてのアップサイクルのハンカチを実際に作っていった今回。これからのファッションに欠かせない「一つのアイテムを大切にする」という意識の背景には、人や環境を思いやる優しい想像力があったように思います。そして、講師や生徒のみなさんとファッションのそもそもの魅力を改めて確認し合うような時間でもありました。

次回の「農暮らす/ agri class」は最終回。テーマは「地球とミライ」です。地球温暖化の状況を観測しているJAXAの温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」のデータを参考に、これまで学んできた食やファッションはもちろん、プラネタリー・バウンダリー時代におけるクリエーションそのものがどうあるべきか、そんなテーマについて考えていきます。日時などの詳細は随時公開していきますので、GAKU公式ウェブサイト、またはSNSをご覧下さい。

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