REPORT

「(Non)Fictional Urbanism – まちの観察と実験 –」第9回〜第10回 提案と発表

 

フィクションとノンフィクションが交差する「街のあるべき姿」を提案する
港区・新橋エリアを舞台にして、リアルな都市空間や建築デザインを学んでいく「(Non)Fictional Urbanism – まちの観察と実験 –」。建築家の海法圭さん、津川恵理さん、建築リサーチャーの川勝真一さんからなる「Town Play Studies」と、変わりつつあるまちの「観察」と理想の都市のあり方の「実験」を通して、これからの都市や街のあり方を考えていきます。

12月9日(土)は、9月からおよそ4ヶ月間にわたって開講された授業の最終回。新橋のリアルな都市像を掴みつつ、まだ見ぬ未来の街の姿をフィクショナルな視点から構想していったこれまでの授業。その集大成として今回は、生徒の皆さんそれぞれのアイデアをグループディスカッションを通して発展させていきながら、新橋の街のあるべき姿をまとめ上げました。

 




「街のあるべき姿」と「自分のありたい姿」が重なるとき
授業の中では毎回発表の時間を設け、それぞれの街への着眼やアイデアを言葉にしたり、他の人と分かち合ったりすることを大切にしてきましたが、グループでアイデアを検討していくことは今回が初めて。それぞれ街に対して感じていることや考えてきたことが違うからこそ、会話を重ねていく中で自分の大切にしたいことが明確になっていったり、新たな気づきも生まれていきます。そしてそこでは、「自分たちが大人になった時にどのような街で生きていきたいか」という、生徒の皆さんそれぞれの切実な想いも重ねられていきます。

今回はそれらをまちづくりの提案として実際の地図に落とし込みつつ、そこで生まれて欲しい風景と起こって欲しい状況を絵と言葉で表していきました。

 





「身体と心を繋ぐ広場、新橋 withあだると」
【コンセプト】
この街で働く人に向けて、働いたりお酒を飲むだけではない街での過ごし方を提示したい。
【アウトライン】
広場空間に「大人の遊び場」を作り出すというアイデア。そこで行われる遊びを「身体的なもの」と「精神的なもの」の2つにわけて、それぞれの「遊び場」のあり方をつくる。
【プランの例】
・「身体的」な遊び場は、仕事の後やお昼休みに思いっきり身体を動かしてリフレッシュができるようにビルの屋上を活用して野球場をつくったり、公園に子ども向けのものだけでなく、大人も楽しめるような遊具を設置する(二人以上でしか使えない遊具を作ったら、新たな交流の機会も生まれていくかも?!)。
・「精神的」な遊び場は、新橋駅前のSL広場が「いろんな人や文脈が偶発的に集まれる場」としてとても魅力的であるとし、それをより発展させていくためのしつらえとして「丘」をつくり、自然と人が腰を下ろして安らげるような空間にする。
・さらに、その二つの遊び場を繋ぐものとして、駅前のシンボルであるSLを走らせる。

 


「現代の武士のゆくえ」
【コンセプト】
「今ある新橋らしさ」と「これから作られる新しい新橋」、それぞれの魅力を大切にしながら、街の中で往来できるようにしたい。
【アウトライン】
江戸時代に武士たちが暮らした「城下町」の風景にインスピレーションを受けつつ、日本人の伝統的な価値観である「ハレとケ」に着目した人の居場所をつくる。
【プランの例】
・「ハレ」は、休日にショッピングを楽しみたい家族連れを対象にした空間。現在の新橋のにぎやかな飲食街エリアから着想を受け、駅前の広い敷地の中に多様なポップアップショップを点在させて定期的にイベントやワークショップ等を開催したり、移動式ベンチを設置して敷地内で自由に利用できるようにする。
・「ケ」は、平日にこの街で働く人や一人でゆっくり過ごしたい人を対象にした空間。江戸時代の「茶室」から着想を受け、周辺に庭や水辺をつくったり、洞窟のような薄暗く落ち着けるような空間をつくることで、立場や所属を超えて(「刀を下ろす」ならぬ、スマホを置いて?!)安らぐ時間を街の中に作り出したい。
・さらに、ビルの外壁の素材にこだわったり、道へ光が入りやすいような設計にしたり、街なかにある広告の向きや数を変えたりと、施設の中だけに留まらず街へ人の流れをつくる。

 


「おじTopia」
【コンセプト】
現在この街で暮らし、働いている人がよりイキイキと過ごせるような街にしたい。
【アウトライン】
自分たちがなりたい「かっこいい大人像」を「自分の好きなことに情熱的であること」だとし、そういった大人たちの集いの場をつくる。
【プランの例】
・駅前に色々なカルチャーや趣味を楽しめる複合ビルを建て、そこに開放的なピロティ(吹き抜け)空間をつくる。
・そのピロティ空間では、丘やトンネルをつくり、丘で緑に触れながら休憩したり、トンネルの中でアートや趣味の展示に触れられるようにすることで、自分の好きなものをじっくりと味わう時間やそれを他の人と共有する機会を、街を舞台に生み出したい。
・新しく建てるビルのみに留まらず、現在の街の魅力にも触れてもらうために、新しい建物が既存の周辺の建物に向かって階段状に繋がっていく構造にすることで、新しい建物と既存の街の風景を接続させていきたい。

 




まだ見ぬ都市像を思い描くための「Fictional Urbanism」
都市の開発に向けた期待感とともに感じる不安感。その不安感をも議論のテーブルに出すことで、あるべき都市像の議論や提案がなされていたのも印象的でした。例えば、「加速する都市開発によって、人と物の動きも加速化されて、人と人との間に何も生まれなくなってしまいそうで怖い」という話には、多くの生徒の皆さんが頷いていました。そういった切実とも言える気持ちに呼応するように、講師の方々からのフィードバックも熱を帯びていくようでした。

「目の前のリアルだけを追いかけてまちづくりをしても、同じような街を再生産することになる。『まだないものをどのように作り出していくのか』という視点は、まちづくりや建築に留まらずクリエーションをしていく上でとても重要なもの。皆さんのプレゼンテーション、とてもよかったです」と、川勝さん。

「今回皆さんそれぞれが授業を通して示してくれたイメージは、未来の新橋に変数を与えるきっかけになったはず。都市は外的な要因と内的な欲望が交錯する場所であってほしい。そういった期待を込めて、皆さんの発表を見ていました」と、津川さん。

「フィクションとノンフィクションが入り混じった皆さんの提案には、今のまちづくりに必要な視点がたくさんあったように思います。授業を通してそんなアウトプットに一緒にたどり着けてとても嬉しいです。ここで得た気づきや感覚を、これからの人生の中でも活かしていってほしいと思います」と、海法さん。

授業の終わりには講師の方々から生徒の皆さんへ、総評とともにエールの言葉が贈られ、授業が締めくくられました。


街づくりのプロセスが、教育の機会となる
今回の授業を通してのグループワークやフィールドワークには、新橋・虎ノ門地区のまちづくりに取り組むURや首都圏総合計画研究所の方々も参画されました。生徒の皆さんにとっては、実際にまちづくりを進める大人との交流の機会になったり、まちづくりに臨む大人の方々にとっては10代の生徒の自由な発想が刺激になったり。街のより良いあり方を構想する。それが、立場や世代を超えて人が集まり学び合う機会となりました。

 

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