「遊びのアーバニズム実践学2022」第9回〜第10回 あそびの発表
「この街の可能性を最大化する遊び」の発表会
街を舞台に、「遊び」を通してリアルな都市空間や建築デザインを学んでいく「遊びのアーバニズム実践学」。建築家の海法圭さん、津川恵理さん、建築リサーチャーの川勝真一さんからなるプロジェクトチーム「Town Play Studies」と、東京理科大学理工学部建築学科西田研究室の学生の皆さんとともに、全10回の授業を通して「遊び」からこれからの都市や街のあり方を考えていきます。
2月23日は、およそ3ヶ月間にわたり実施してきた授業の最終回。日本橋横山町・馬喰町を舞台に、グループでのフィールドワークやディスカッションを重ねながら生徒の皆さんによって考案された「この街の可能性を最大化する遊び」の発表会が行われました。
遊び、体験、デザイン、建築、都市計画、それぞれが重なる
「遊び」をキーワードとした新しい街の使い方や過ごし方などが提案されました。商業事業者・住民・来訪者の新しい関係を結ぶものだったり、既にある街の建物をアイデアで新しい価値付けをしたり。これまでの「遊び」を通して掴んできたものが、建築や都市計画のあり方を捉え直すものであったことも改めて確認されました。
「Characterの重ね塗り」
●着想
・「さんかく問屋街」とも呼ばれる三角形に区切られたエリアに着目。
・エリア内の道路の多くが「どん詰まり」で通り抜けができないことによって、道路が通行する以外の機能を帯びている。
・問屋さんの店構えや看板などがそれぞれ独特で建物も歴史を感じるものだったり、軒先から道路にはみ出しているディスプレイがあったりと、特徴に溢れている。
・ある意味で特徴がありすぎるので、印象が曖昧であったり、エリア内のそれぞれの通りの特徴を掴みづらいと感じた。
●アイデア
・例えば、ニューヨークの街並みでは、通りに名前が付けられていて、それぞれがユニークに感じられる。「さんかく問屋街」でも、それぞれの通りの特徴を明確にしていきたい。
・それぞれの通りの舗装の色や素材を変えていく。
・通りによって、通り過ぎるだけでなく、人が集まれたり、遊ぶことができる広場のようになっている。
・キャッチボールができたり、ベンチで憩うことができたり、庭のように使えたり。親子連れ、カップル、お年寄り、居住者、来訪者など、立場を超えた人々が通り過ぎるだけではない、過ごし方をすることができる。
・レンガやタイルを使った通りは人気がでそうだが、費用もかさむことが考えられる。その場合は、それらを「タイル賃貸」として、広告スペースとして運用することで経済性も考慮していきたい。
●影響
・このエリアには、問屋街で働く人以外が訪れる機会はあまりないと考えられる。とはいえ、街並みの魅力を強く感じた。今回のアイディアのように、道路を通り過ぎるだけでなく、遊べたり憩えたりする場所として活用することで、様々な目的から訪れる人が増加すると考える。
「#とんとんスナップ」
●着想
・街に立ち並ぶ問屋さんでは、服を中心に帽子やバックなどのファッションアイテムが店内にも路上にも溢れ出ていて、その景色に心が奪われた。
・店構えも特徴的で、フォトスポットとしての可能性を感じた。
・路上が商いに活用されている様子を「公道を借りている」ようだと捉え、「借りる」ということがこの街の特徴なのではないかと考えた。
・街並みがとても魅力的に感じたが、ほとんどの問屋さんが小売りをしていないため、近寄りがたい印象を持った。
●アイデア
・一般の人にもこの街の魅力を味わってもらうために、問屋さんの服やファッションアイテムを自由に「借りる」ことで誰もが街で装うことができるサービスを展開する。
・装おうだけでなく、街の風景をフォトスポットとしても紹介していくことで、装った後の体験も促していきたい。
・「借りる」ことができる場所や撮影された写真を共有するためのアプリケーションをつくる。
・この街の問屋さん、飲食店などの事業者、住民、来訪者などが関わり合い、メリットを創出しながら、この街の魅力を発信していく生態系を実現する。
●影響
・この街で商う問屋さんにとって、商品のサンプル品を貸すことで一般の人の反応や需要を知ることができる機会や、ファッションロスを減らすことにも繋がり、外から訪れる人だけでなく街で暮らす人にとっても良い影響を与えられるのではないかと考える。
「空中散歩 ービル上の公園ー」
●着想
・植物が植えられて庭のようになっていたり、洗濯物が干してあったりと、商いと暮らしが織り混ざった独特な魅力をこの街の屋上に感じられた。
・凹凸のある独特の形状を持つ建物が密集し立ち並ぶ風景が、道路と同じように連続する面的な空間に感じられた。
・1階で商い、2階で暮らすという商いのスタイルが長く続いたという歴史もあり、また店舗は1階部分にあるため、屋上の注目が集まることがないであろうと考えた。
●アイデア
・建物の屋上を公園のように開放して、その空間や壁を使ってそれぞれの建物の形にあわせたアクティビティやイベントを展開したい。
・いくつもの窓によって凸凹とした壁面を持つ建物では、その壁面を使ったボルダリングを体験できる施設にしたり、他の建物よりも少し高く細長い建物には、街を一望できるような展望台を作ったり。建物ごとに遊びや体験の機会をつくることで、街全体をレジャー施設のようにし、休日に人が集うきっかけを生み出したい。
●影響
・これまでプライベートな領域としてされてきた建物の屋上空間を、パブリックな領域として見立てることで、街のなかで活用することができる「床」が増加する。
・屋上という高さを持つ場所性を活かすことで、展望台やボルダリングといったこれまでになかった遊びや体験が創出されるきっかけになる。
遊び心が広がれば人も街も変わる
授業の終わりには講師の方々から生徒の皆さんへ、総評とともに修了証が贈られました。
「『遊ぶように暮らす』『街の魅力を最大化する』という今回のテーマにそれぞれが真っ直ぐ向き合って考えていったからこそ、この街の普遍的な部分に触れるようなアイデアがうまれた。そのマインドを持っていれば、どの街へいってもそこの特性を見つけて楽しむことができるはず。今回の体験を忘れずに、遊ぶように暮らしてください!」と、海法さん。
「『正しい』回答を求められる今の社会だけど、そこに答え続けていくだけではどんどん街が面白くなくなっていってしまう。ちょっと遊ぼう、楽しもうとする気持ちに実は本質があると私は信じているし、そういうところに人もお金も集まっていくはずなのに、同時に一番抜け落ちてしまう部分でもある。だからみんなには、遊ぶ気持ちを忘れないでください」と、津川さん。
「街の中に身体を置き、遊ぶように考えていったことで、きっと身体や心が思わず反応することがあったと思います。そのように、既存のものに囚われず、いかに自分の中にまだないようなものを引き出していけるか。これは都市デザインにおいてとても重要な考え方であり、まさに遊びであると僕は考えています。今回の授業を通して、皆さん一人ひとりがそういった感覚を少しでも感じてくれていたらとても嬉しいです」と、川勝さん。
街づくりのプロセスが、教育の機会となる
今回の授業を通してのグループワークやフィールドワークには、日本橋横山町・馬喰町エリアのまちづくりを進めるURやデロイトトーマツの方々も参画。実際のフィールドの中でリアルな建築や都市計画を学びつつ、立場や世代を超えて街と向き合っていくような機会となりました。