「オブジェクト・ベースド・ラーニング実践」
「じっくりしっかり見る」ための方法論を実践する
「オブジェクト・ベースト・ラーニング(以下、OBL)」は、イギリスやオーストラリアの大学を中心に、文化財への新しいアプローチとして近年盛んに試みられている学びの方法です。アート作品や学術資料といった複雑な意味や歴史を内包するオブジェクトとの出会いから、感覚を研ぎ澄ましたり、考察を深めたり、対話を重ねつつ、自分なりの解釈を育んでいきます(その「出会い方」を大切にするためにも、鑑賞する作品については当日までの秘密となります)。
8月18日(金)には、そんなOBLの方法論を実践するクラスを単発開講しました。舞台となったのは、現代社会における芸術活動の役割をテーマに理論研究と実践活動を広く展開している「慶應義塾大学アート・センター」。慶應義塾大学所蔵の美術作品や学術研究の成果等がアーカイブされています。講師は、同センターでキュレーターを務める渡部葉子教授。東京都美術館、東京都現代美術館における学芸員を経て、近年は日本におけるOBLの第一人者として、その研究や普及にもご尽力されています。
「感じて・考えて・伝え合う」を徹底的にやることで浮かび上がるもの
美術館やミュージアムの展示物には多くの場合、解説のためのキャプションがつきますが、OBLでは「感じて・考えて・伝え合う」ことを徹底的に行っていくために、オブジェクトに関する情報が一切無い状態で実践を進めていきます。
目の前にあるオブジェクトに実際に触れながら、渡部先生の問いかけやワークシートのインストラクションも手がかりに、その色、形、大きさ、匂いといった要素にじっくり着目していきます。一口に色や形といっても、言葉では容易に表せないものばかり。だからこそ、観察眼も研ぎ澄ませていきつつ、その表し方にもそれぞれの工夫がみられるようでした。「じっくりしっかり見る」という体験に少しずつ慣れていくにつれて、わたしたちがいかによく見るということから離れて生活をしているか、ということが身につまされていきます。
投げかけやインストラクションは次第に、より一層の観察や想像が求められていくものに変化していきます。そのオブジェクトが作られた時代や制作した人物像やそれが用いられていた社会。生徒同士の議論もどんどん盛り上がっていく様子です。唯一絶対の正解を求めていく活動ではないものの、徹底的に観察し想像するからこそ、「実際のところはどうなっているんだろう」という好奇心がどんどんと高まっていく様子も印象的。活動の終盤では、渡部先生から今回の題材となったオブジェクトの解説も。「ああ、やっぱり!」と、生徒の解釈とオブジェクトの実際の由来が遠からず重なったり、一方で「ええ!意外!」と、想像し得なかった事実に驚いたり。自分の身体を通して感じたり考えてきたが故に、オブジェクトにまつわる史実や情報への関心や浸透度が自然と高まっていくようでした。
アート・センターの裏側も体験
授業の終わりには、今回の授業の舞台となった「慶應義塾大学アート・センター」の収蔵庫を見学。ここには、今回のOBL実践で題材となったオブジェクトを含む、様々なアート作品やその作品・作家にまつわる歴史的資料がアーカイブされています。そこから実際に、今回の「オブジェクト」に関連する資料を一つ一つを丁寧に解説してくださる渡部先生。生徒の皆さんは空間に所狭しと並ぶ膨大なアーカイブ資料に圧倒されながら、渡部先生の姿そのものからも、学芸員やキュレーターという仕事の奥深さを感じていく機会になりました。
様々なクリエーションの現場を舞台に、学びを広げていく
およそ3時間にわたり、「感じて・考えて・伝える」こととじっくり向き合っていった今回の授業。GAKUでは引き続き、大学やミュージアムの専門家と連携したり、GAKUから飛び出て様々なクリエーションの現場を舞台にしたりする学びの機会を作っていきたいと考えています。今後の展開にもぜひご期待ください。