REPORT

「花あそ部」特別授業『花と歌』


普段は伝えきれない想いを、「花と歌」を通して表現する
「花あそ部」は花いけジャパンプロジェクトによるいけばなのクラス。花をいけることを自由に楽しみながら、「​​人はなぜ、花をいけるのか?」という問いに向き合い、花にまつわるクリエーションを体験していきます。

9月18日(日)には、特別授業「花と歌」を開催しました。講師は、歌人の岡野大嗣さんと花美術家の日向雄一郎さんです。翌日9月19日の敬老の日にちなんで開催された今回。生徒それぞれが祖父母への想いを、短歌といけばなを通して表現していきました。

 


「まだねてる渋谷を起こさないようにPARCOへの小さなハイキング」
まずは最初に短歌づくりに挑戦。はじめて短歌に触れる生徒にも、短歌や言葉の面白さを感じてもらうために、岡野さんのデモンストレーションから始まります。「まだねてる渋谷を起こさないようにPARCOへの小さなハイキング」という歌の背景にあるのは、いつも賑やかな渋谷の街だけど朝は静かで、まるで街が寝ているように感じられたり、坂が多い渋谷の道中が小さな山登りのように思ったりという岡野さんご自身の体感がもとになっています。実際に生徒の皆さんもGAKUに来るまでに通った渋谷の街を舞台にした短歌。岡野さんご自身の想いや歌の背景に触れながら、「自分なら、、、」と想像も膨らみます。短歌を通して「自分の心の動きを忘れないようにしておける」と言う岡野さんの言葉も自然と浸透していくようでした。

 


自分自身の心の動きと向き合い、31字を探していく
何かを表現したいという動機や自分自身の起点となる想いが大切。技術は後からついてくる。それをこの授業でも大切にしたい。そんな岡野さんの考えから、今回はオンラインでの事前レクチャーも実施。生徒それぞれが祖父母の方との関係や思い出をじっくり見つめ直したり、そこでの想いを共有していきました。自分自身との会話、岡野さんとの会話。いろいろな会話を事前と授業当日に重ねていくことで、表現することの動機そのものを再確認したり、表現するための言葉をじっくり磨いていきます。

 


AIもインスピレーションのきっかけに
さらに、短歌づくりのサポートとして、朝日新聞社メディア研究開発センターによる「短歌AI」も登場。「短歌AI」は、キーワードやエピソードを入力することで自動で短歌が生成されるというもの。自分の想像もつかないような表現や言葉、新たな解釈に触れてみることで、自分なりにしっくりくる言葉を探していきながら、短歌を作り上げていきました。

 


短歌に込めた想いに呼応する花をいける
授業の後半では、短歌とともに贈る花をいけていきます。「形でも色でも茎でも。自分なりに、直感的に花を捉えてみましょう。自分が紡いできた言葉に対してのアンサーとなるような花を選び、いける。花言葉を自分で作るくらいの感覚で、自分自身の気持ちを素直に感じてみましょう」と、日向さん。季節の旬の花から、それぞれの想いに呼応するような3〜5種類を選んでいきます。花一本一本の表情を見ながら、自分の作り上げた短歌や、祖父母の顔を思い浮かべながら、時間をかけて花を選んでいく生徒の皆さん。31字からははみ出るような想いも、花と組み合わせることで表していきます。今回は、縦書きで言葉を紡いでいく短歌にちなみ、細長い花器に花をたてていく「たて花」という形で表現していきました。

仕上げには、短歌をしたためた短冊をリボンのようにお花に結び、祖父母に向けての生徒それぞれの「花と歌」が完成しました。

 



異なった表現が組み合わさるからこそ伝えられるもの
完成したら、みんなでお披露目。「早起きして、祖母の部屋で楽しくおしゃべりをしている記憶を詠んだ短歌。その時の風の匂いと、今思うと夢みたいだったなと思う光景を表現しました。薄紫色の花は、夢のような雰囲気と祖母の優しい表情を表しています」「認知症の祖母とディズニーランドにいった思い出。楽しかった記憶だけど、祖母自身は忘れてしまっていて切ない気持ちもあります。その時の祖母の様子を歌にしました。お花は、明るい黄色の花と暗めの色の花を組み合わせることで、楽しかったけど悲しくもある自分自身の相反する気持ちを表現しました」と、生徒の皆さんからは、作品とともにその背景や想いが語られます。いけばなと短歌それぞれだからこそ表せるものも感じながら、それらが組み合わさることで生まれる表現の広がりや面白さも、生徒それぞれが手を動かしながら捉えていったようでした。

 


自分なりの「表現の蛇口」を見つけること
「自分の心の底を見つめて表す、その過程こそが表現だと僕は思っています。自分にとって短歌は表現の蛇口。それまで自分の中に貯めていたものを、短歌を通して出すことができたという感覚でした。短歌以外でも、みんなが何か表現の蛇口を見つけた時に、そこからいっぱい表現を出していくには、自分の心の動きと向き合う時間を大切にすることが重要なのかなと思います。今回の授業を通して、少しでもそれを掴んでもらえていたら嬉しいです」と、岡野さん。「『かわいいな』と思って花を選んだり贈ったりするのももちろん良い。でも今日はそこから少し踏み込んで、その奥にある意味や想いを探っていきました。そして、皆さんなりの答えや表現が生まれた。それは、とても素敵なことです。今回をきっかけに、皆さんの日常の中でも、感じたことや思ったことを言葉にしたり花に置き換えたりしながら、豊かな言葉や花のある暮らしを楽しんでもらえたら嬉しいです」と日向さん。表現することそのものの喜びや豊かさの詰まったお二人のコメントで、今回の授業は締めくくられました。

 


花のクリエーションが渋谷PARCOに広がる
「花あそ部」では毎回、授業を通して作り上げられた生徒の作品の展示発表を、渋谷PARCO館内にて実施しています。今回は授業にちなんで、9月14日(水)〜18日(日)の期間に9階フロアにて、講師の日向さんによる作品展示が行なわれました。「花あそ部」では、来年度もクラスを開講予定です。是非ご期待ください。

 

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