「東京芸術中学(第2期)」 第13回 石田英敬さん
10代が考える、人工知能と共生する未来のあるべき姿
編集者・菅付雅信さんと13人の世界的クリエイターによる「東京芸術中学」。7月9日(土)は記号論者の石田英敬さんによる2回目の授業です。
「AF(人工友達)の気持ちってどんな気持ち?ー 21世紀にサイボーグであること」というテーマのもとに開催された1回目の授業。人工知能の存在が私たちの暮らしに浸透していくなかで、人と技術の関係性の歴史を紐解きながら、未来のあるべき姿を考えていきました。そんな前回の授業を踏まえ、石田さんから出題された課題は『クララとお日さま』(カズオイシグロ著)を読んでくること。人工知能を搭載した人型ロボット「AF(人工友達)」と、その周りのヒトとの暮らしが描かれる同作品。今回の授業では、石田さんとの対話を通して物語の世界を自分なりに捉えていきながら、前回のキーワードとなった「人工知能と共生する未来のあるべき姿」について、生徒それぞれが考えを巡らせていきました。
幸せとは?らしさとは?進歩とは?など、AFをきっかけに考えを深める
「AF(人工友達)の気持ちってどんな気持ち?」「もしも自分がAFだったとしたら?」「この世界はどんなところが問題だと思う?私たちが生きている世界と比べてどう?」と、石田さんから生徒一人一人へ、物語を切り口に様々な問いが投げかけられます。自分の考えや想いを少しずつ言葉にしながら、石田さんと一対一で、じっくり対話を深めていきました。
「この世界では、愛情や友情がAFに任せっきりになってるような感じがする。AFを買うことができるのは裕福かもしれないけど、それって本当に幸せなのかな」と、例えば、お金や利便性と幸せとの関係について。「AFも人間も変わらないように感じた。人間らしく、機械らしく、ではなく『自分らしく』いることが大切なのかもしれない」と、例えば、らしさやアイデンティティについて。「科学が進歩したとしても、すぐに飽きて忘れてしまうという人間の性質は変わらない」と、例えば、技術の進歩と人間の進歩のギャップについて。ひとつの小説を題材に深まっていく対話を通して、感じることや考え続けていくことの楽しさや大切さを実感していったように思います。また、前回の授業での「過去につくられた前提や常識を疑うことを忘れないでください。どのように自由を手にいれるかを考え続けることが大切」という石田さんの言葉も思い出されます。
より良く学ぶということは、より良く生きるということ
「僕たちは、自分の脳の中で自分の考えを作っているんだけど、その考えをもたらす感覚や感情は外部の環境によってもたらされるもの。つまり、他の人がいるから自分の考えがあるとも言えます。だから単純な論理だけではなくて、そのことを踏まえないと、現実の人間のような人工知能を作ることはできない」と、石田さん。それに呼応するように、菅付さんは
「イマジネーションや思いやり、何かをゼロから生み出すことは、人工知能にはできない。それは人間がやること」と、芸中で学ぶことの意味や意義を改めて確認していきました。
それぞれが主人公として生きていくために
学び続けていくことの喜びを石田さん自身が感じてらっしゃることが、授業の内容とともにその佇まいや所作からも強く伝わってくるようでした。それは、「ゲームのプレイヤーになるよりも、そのゲーム自体を生み出すゲームマスターになって欲しい」という10代への石田さんの想いにも通じるものがあるように感じます。それに反応するように、生徒の皆さんも課題図書を何度も読み返したり、自身の心に向き合って言葉を選びながら、気持ちを込めて考えを表現していたのがとても印象的でした。