REPORT

「Beyond the Music(第2期)」第4回 音楽とグラフィックデザイン


音楽を切り口に「デザインのイロハ」を考える
音楽を通じて、言語、文化、歴史、物理、民族、テクノロジーといった、他の領域への学びを深めていく「Beyond the Music」。WONK/millennium paradeキーボーディストの江﨑文武さんが総合ディレクターを務め、授業ごとに幅広い分野で活躍する方をゲスト講師に迎えます。

2022年6月28日(火)には、第4回授業「音楽とグラフィックデザイン」を開講しました。ゲスト講師は「millennium parade」や「PERIMETRON」でアートディレクター・グラフィックデザイナーを務める森洸大さん。歴史的な観点や、音楽にまつわる様々なデザインも手がける森さんの「デザインのイロハ」に触れ、音楽とグラフィックデザインの関わりを紐解いていきながら、生徒も創り手となってアルバムジャケットのデザインに挑戦しました。

 


音楽環境の変化とともに、デザインの役割も変わっていく
「音楽とデザインが関わり始めたのは紀元前2000年。音楽を初めて目に見えるものとして表した『楽譜』から始まっているんです」という江﨑さん。まずは音楽の歴史を通して、グラフィックデザインとの関わりを捉えていきます。

録音技術が発明される以前は、グラフィックデザインが音楽そのものを定義したり共有する役目をが担っていたこと(「音符が発明される以前の楽譜には、絵や模様を使って曲のイメージを表現していたものもあった」「楽譜の表紙や挿絵のデザインの美しさで曲の価値が決められていた」とのこと)。レコードやCDなどで音源を購入できるようになってからは、音楽の「装飾」としてデザインが用いられるようになり「カバーアート」の文化が誕生したこと(アンディー・ウォーホルやピーター・ブレイクなど、歴史に名を残す様々なアーティストによって手がけられ、曲そのもの以上に知られる作品も数多くあります)。ネット上で音楽を見つけること、聴くことが当たり前になった現在では、「カバーアート」に映像やアニメーションが用いられるなど、デジタルだからこその新たな表現も生まれていること。音楽環境の変化に合わせて、音楽におけるグラフィックデザインの役割や表現のあり方も進化し続けているのだと言います。

 


何かを伝えたいという圧倒的なパワーに惹かれる
「自分は美術的な知識や芸術学的なことはわからない。でも、これまでいろんな人と、いろんなものを作ることができました。気合いと努力と人を想う気持ちがあれば、人はどこまでも突き進んでいけるはず。今回の授業を通して、そういうことを感じてもらえたら嬉しいです」という森さん。学生時代に影響を受けたものを挙げながら、お話は森さんご自身の「デザインのイロハ」へも繋がっていきます。

ヘヴィメタルバンド「Slipnot」やプロレスラー「Jeff Hardy」のマスクデザインやフェイスペイントに影響を受けた中高時代では、自作でマスク作りを始めデザインの道へ進むきっかけにもなったそうです。ロックバンド「tool」のCDジャケットやアートワークからは、ビジュアルの奥にあるコンセプトや姿勢の「内面的なかっこよさ」に強く影響を受けたそう。当時の森さんは、それらの持つ「『何かを伝えたい』という圧倒的なパワー」に惹かれたそうです。現在のご自身の制作においても常に意識されていることだと言います。

そんな森さんの、デザインを作る上でのルーティーンは「コンセプトシート」を作ること。アーティスト側が「何を打ち出していきたいのか」と、実際に世の中から「どのように見られているか」ということを入念にリサーチし、デザインで何を伝えるべきかを考えていく。気になるモチーフを集め、並べてみたり、コラージュしてみたりしながら、視覚的なイメージを膨らませていく。実際に制作で使われたというコンセプトシートを映しながら、様々な意図が語られます。「ビジュアルはそのアーティストや曲の『顔』となる重要なものだからこそ」という言葉に、森さんのデザイナーとしての想いも垣間見えるようでした。

 


自分自身のインスピレーションや好みから見つけていく「デザインのイロハ」
授業の後半では、生徒のみなさんが好きなミュージシャンを選んで、オリジナルのアルバムジャケットのデザインに挑戦。自分自身の手を動かしていくことで、自分なりの「デザインのイロハ」を捉えていきます。「アルバムにシールが付いていて、聴き手が自分でジャケットをデザインできる仕様にする」という、作り手と聴き手との新たな関わり方を提案するアイデア。「CDジャケットに鏡をつけて聴き手自身が映るようにして、曲中の『君が必要なんだ』という言葉を表現したい」という、曲の意味やストーリーを聴き手がより深く感じるためのアイデア。「宇宙がテーマだけど、実際に聴くとすごく自分の身近なものに感じる曲。その雰囲気を伝えるために、日常の中にあるビーズや糸を使って宇宙を表してみたい」という、曲のテーマと自分の感覚を混ぜ合わせながら発想したアイデア。デザインのイメージとともに、それぞれの視点や選んだ曲への想いも語られます。森さんの中高時代に通じる「気合いと努力と人を想う気持ち」を生徒の皆さんから感じました。

 


根っこをもつことの大切さ
「物の質感や仕掛けの面白さ、かっこよさは世代が違えど共感し合える部分なんだなと改めて思えた。嬉しかったし安心しました」と、森さん。「見た目ももちろん大切だけど、『何を伝えたいか』という根っこの部分をしっかり持つことも同じくらい重要。それはデザインに限らず、ものづくりをする人にとって必要な視点。でも同時に欠けてしまいやすいものでもあります。憧れているアーティストがいるのであれば、作品そのもののかっこよさだけではなく『何を表現しようとしているのか』という視点を持つと、見え方も変わってくるはずです」と、江﨑さん。森さんのデザイナーとしての姿勢に触れ、自分たちも作り手となることを体験した生徒の皆さん。やっぱりインパクトのある体験をすると、その後の世界の見え方が変わりますよね。

次回の第5回授業は7月末に実施予定。授業日程や申し込み方法など、詳細情報は決まり次第、GAKUウェブサイト、SNSにて発信していきます。このクラスは単発での生徒募集を行なっているので、興味のある方はぜひご参加ください。

 

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