「Beyond the Music(第2期)」第1回 音楽と食
音楽と食の根っこをたどれば学びが広がる
音楽を通じて、言語、文化、歴史、物理、民族、テクノロジーといった、他の領域への学びを深めていく「Beyond the Music」。WONK/millennium paradeキーボーディストの江﨑文武さんが総合ディレクターを務め、授業ごとに幅広い分野で活躍する方をゲスト講師に迎えます。
3月27日(日)には、第1回授業「音楽と食」を開講しました。ゲスト講師は、「WONK」ボーカリストの長塚健斗さん、ベーシストの休日課長さん。音楽家でありながら料理人としての活動も展開されているお二人とともに、食文化の歴史や音楽との関わりを紐解きながら、生徒も創り手となって「妄想レシピ」を考案していきました。
食を通して人が集まる機会は、音楽も育む!?
まずは、江﨑さんの講義から授業はスタート。音楽と食がどのように関わり合い、影響を与え合ってきたのかを、食文化の歴史を通して捉えていきます。
食と音楽の歴史が交差した起源は、大人数で食卓を囲む「宴会文化」が発展したギリシャ文明以降だと言います。人が集い、食事を楽しむ環境づくりの1つとして「ターフェル ムジーク(テーブルミュージック)」という音楽ジャンルが生まれたということ。貴族が、音楽家や芸術家に給料を支払って食事会に呼ぶようになること。芸事や音楽が職業として発展していった背景にも食文化が深く関係しているということ。「音楽には魔力がある」と考えられており「調理場で音楽を奏でると料理が美味しくなる」と、食事だけではなく調理環境にも影響を与えていたこと。さまざまなエピソードが語られます。また、ショパンやベートーベンと同時期に活躍した作曲家・ロッシーニは音楽をやめて料理人に転身するなど、食の魅力に魅せられる音楽家も数多くいたのだとか。食から音楽、音楽から食へ、それぞれの文化を横断して見ていきながら、想像以上に深い、音楽と食の関わりに生徒の皆さんも驚いている様子です。
「好きを諦めない」から生まれる新たな可能性
続くゲスト講師のお二人による講義では、音楽家でありながら料理人としても活動する生き方に迫っていきます。現在の活動に至った経緯や学生時代の話、仕事、趣味との向き合い方など。お二人の人生観が垣間見えるお話は、生徒の皆さんへのエールの言葉に溢れているようでした。
「頭の中は音楽80%で食15%、95%は『趣味』」だという休日課長さんは、様々なバンドのベーシストとして活動しながら、食への興味関心が評価されて食に関する書籍が出版されるほど、幅広く活動をされています。そんな休日課長さんの活動の背景には、「趣味をとにかく突き詰めていった学生時代」があり、突き詰めていく中で、趣味と仕事が混ざり合うような、現在のご活動にも繋がっていったのだと言います。様々な体験談のなかで、「気になったらとにかくはじめてみよう」「何事にも、自分なりのこだわりをもとう」「インプットする時、外の基準ではなくて、自分の感覚でちゃんと味わうことが大切」という言葉も贈られます。
料理⼈やファッションモデルとしても活動する「WONK」ボーカリストの⻑塚健⽃さんは、「『好き』同士を繋げる」ことが今の活動に大きく影響しているのだと言います。進路に悩んだ学生時代、偶然が重なり合って始まったバンド活動、料理人時代に感じた違和感。ご自身のこれまでを振り返りながら、その中で発見した他のジャンルがかけ合わさることの可能性や、異なる分野のもの同士の共通項をお話ししてくださいます。ところどころに失敗談も交えつつ、「好きで始めたことって、自分の幸せになっていく。形にすることは大変だけど、その原点が1番大切だった。だからみんなにも、自分の好きを諦めないでほしい。続けていたら必ずなにかにつながっていく」という言葉も贈られます。
妄想バンザイ
講義の後は、休日課長さんの著書「妄想レシピ」にちなんだ特別ワークショップを実施。生徒自らが創り手となり、グループごとに「誰かに届けたい」レシピのアイデアを考えていきます。「音楽が食事の演出になりうるのなら、言葉で説明しきれない音楽の魅力を料理を通して表現できるのではないか」という想いから、音楽愛好家に向けたレシピ。食文化の変化をみていきながら「未来はどうなっているのだろう」と疑問を持ったグループによる「1000年後の君へ」と題した多忙な未来人を想像したレシピ。様々な「妄想レシピ」が生まれ、「妄想」の自由度を味わいながら講師も生徒もみんなで一緒になって盛り上がります。
次回は、人の身体や脳の仕組みから音楽を捉える
「これまで深く知る機会がなかった分野や知識に触れることができるのが、この授業をやる楽しみの1つ。主宰しながら、僕自身もすごく勉強になっています」と、江﨑さん。クリエイターの創造や学びに向かう態度に触れられるのはとても貴重な体験であるように思います。次回の第2回授業のテーマは「音楽する脳」。脳科学者であり演奏者でもある古屋さんをゲストにお招きし、人の身体や脳の仕組みを通して、音楽を捉えることを体験していきます。