REPORT

「遊びのアーバニズム実践学2022」第3回 センシング・ビンゴ

「目に見えない要素」から都市風景を捉える
街を舞台に、「遊び」を通してリアルな都市空間や建築デザインを学んでいく「遊びのアーバニズム実践学」。建築家の海法圭さん、津川恵理さん、建築リサーチャーの川勝真一さんからなるプロジェクトチーム「Town Play Studies」と、東京理科大学理工学部建築学科西田研究室の学生の皆さんとともに、全10回の授業を通して「遊び」からこれからの都市や街のあり方を考えていきます。

1月10日(土)に開講された第3回では、温度や湿度、風量といった普段は感覚的に捉えている「目に見えない要素」を具体的な数値として表す「センシング」を遊びを通して実践することで、これまでとは異なった観点から都市の姿を捉えていきました。

 

「共通言語」としてのセンシング
授業のはじめには、講師の方々の実際の仕事やプロジェクトを例に挙げながら、都市や建築におけるセンシングの役割について学んでいきます。

例えば、海法さんによるシェアオフィスの建築設計。快適な仕事環境を実現するために「照明計画」と呼ばれる設計図をつくることで、空間ごとの明るさを細かく調整しているのだそう。建てる場所や目的に合わせて空間の環境的なあり方を整えていくために、センシングは欠かせない要素なのだと言います。例えば、川勝さん率いる「RAD(Research for Architectural Domain)」によって実施されたリサーチ。センサーのついた服を着て街を歩き、身体で感覚的に感じたことと実際の数値との関係を可視化することで、その街の現在の生活環境を調査するというもの。センシングは「自分の感覚を数値として他の人と共有できるからこそ、街の現状の姿や暮らしのあり方を知る一つの手がかりになる」のだと言います。

さらに、そういった都市におけるセンシングは専門家だけでなく一般市民の間でも広がりつつあると言います。例えば「シティズンセンシング」と呼ばれる活動では、地域住民自らがセンシングを行うことで暮らす人の立場から生活環境をより良いものにしていくことが目指されているのだとか。センシングは都市における「感覚の共通言語」としての役割をになっていることがわかります。

 

身体感覚と実際の数値をすり合わせる
講師の方々によるレクチャーを踏まえ後半では、実際に生徒の皆さんも街に繰り出してセンシングを実践していきます。今回使うのは、「音量」「風速」「表面温度」「照度」「硬度」「傾斜」「空気質」の7種類のセンサー。ただ測定するだけではなくそれらの数値を使ったビンゴゲームを行うことで、それぞれの身体感覚と数値とを照らし合わせながら都市の姿を捉えていきました。

「屋外だから表面温度はあまり変化がないのかと思っていたけど、同じ空間にあるものでも材質の違いによって数値が結構変わる。そういう点でも、建築をつくる上での素材選びは重要なのかもしれない」「硬度を測ってみたら街にはやわらかいものがほとんどなくてびっくり。自転車のサドルやお店に並んでいる商品はある程度やわらかいけど、外に設置されているようなものはほとんどコンクリートや鉄のような硬い素材ばかりだった」と、生徒の皆さん。自分の感覚だけではとらえきれない詳細な情報から都市をみてみると、それぞれの気づきを発表し合うのも新鮮です。

「柔らかいものは耐水性や耐候性の低いものが多いから、都市が硬いものだらけになってしまっている。でも人の手に触れるのは柔らかいものの方がいいはず。都市の中にどのように柔らかいものを置いていくかということは、私自身も今とても興味があるテーマです」と、津川さん。「身体と数値をすり合わせる。それを積み重ねていくことで、その物差しをインストールしている人にしかつくれない建築が生まれるかもしれない」と、海法さん。センシングを通して都市や建築の可能性や課題を見据えていくような講師の方々のコメントも印象的でした。

 

次回は講師の方々による特別講義
「遊び」を通して様々な視点から都市を体験してきたこれまでの授業。それらの体験が、実際にどのように建築や都市計画につながっていくのか。次回の授業では、講師の3名それぞれの活動やそこに込められた想いを知ることで、建築や都市における遊びの意味を改めて紐解いていきます。

 

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