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「世界ずっとWONDER」テストプレイ

9月の開校に先立ち、「世界ずっとWONDER」の模擬授業として「テストプレイ」が開催されました。「世界ずっとWONDER」ってどんなクラス?と聞かれると、ちょっとひとことで答えるのは難しい。でも、この謎めきは、想像力や好奇心を刺激する、このクラスの面白さであり、可能性でもあります。

クラスの詳細は、「世界ずっとWONDER」公式サイトをぜひチェックしてみてください。そんなWONDERな雰囲気が全開で刺激的です。

世界ずっとWONDERは、「世界の秘密の続きを描くインディーズメディアラボ」とのこと。「映像表現を通して、未知なる世界や自分と出会い、好奇心や創造力を育て、様々なメディアを使って未だ語られていない物語を立ち上げる技術(DIG・CONTEXT・DOOR)や、未来のメディアリテラシーを学ぶ」クラスです。


△世界ずっとWONDERで制作中の教育番組。今後配信予定とのこと。

 

メイン講師を務めるのは、創作あーちすと”のん”の挑戦を追いかけた『のんたれ』(YouTube2019)をはじめとし、映画やドキュメンタリーを中心に映像制作を行う映像ディレクター・中里龍造さん。そのため、映像やドキュメンタリーは、もちろんキーワード。

「映像制作は単なる自己表現ではなく、世界と出会い、未知の世界や自分について理解を深める体験。」

そう語る中里さんは、映像表現における、何かを発見する視点や、知らなかった世界や自分について学ぶ探求力、そしてそれを他者に伝える表現力や物語を紡ぐ力などを、自分と世界との関係を深めるプロセスにおいて広く学びとしてシェアしたいとのこと。

世界に対してあらゆる尺度や角度から視点(カメラ)を向けたいという想いが出発点にあるようです。さらに、映像に限らず様々なキーワードに溢れていて、分からなさの道草のような豊かな体験が大切にされています。

どこにたどり着くか分からないし、たどり着く先が明確な一つの答えであるとは限らない、個々人や世界が持つ複雑さや謎の存在を認め、考えていく。この考えるプロセスを楽しみながら、クリエイティビティを育んでいく。10代の間にその楽しみ方を身に着けることは、きっとこれからの人生を生きていくための原体験になるはずです。

△ロンドン、ビートルズのスタジオ前にて、はにかむ10代の頃の講師

「世界ずっとWONDER」には2つのクラスがあります。

「ヴィジョンリサーチコース」は、「未来の“教育番組”を企画・制作する」ということを、1つの共通テーマに置きながら、学びやクリエーションを深めていきます。共通テーマはあくまでもとっかかり。未来?教育?番組?いろんな切り口で、問いを重ねながらまさに、それぞれの「ビジョン」をリサーチしていきます。

映像番組を制作するにしても、そこにはいろんな役割が必要ですが、このプログラムではあらかじめ決まった役割が与えられるのではなく、参加者の問いや好奇心に基づき次第に役割が決まっていきます。

また、ヴィジョン(=見たい風景や、つくりたいもの)へのアクセスを試行錯誤するなかで、それぞれの特性や学びのベクトルから役割を見出し合う、ゆるやかなチームのような、ひらかれたコミュニティが同時に形成されていきます。

決まった答えのない「つくる」ということを中心にしたコミュニティの中で、互いにバラバラなヴィジョンを学ぶことは、世界や自分の「わからなさ」に気づいて、自分や他者について想像力を巡らせる機会になりそうです。

「みんなでつくるから、気づくこと、ひらめくことがある」

未知なる予感を探求するコミュニティが、個々のより良い学びや、他者と共に創るスキルを深めていきます。

 

テストプレイでは、現代におけるメディアって何だろう?という問いかけから、自分自身の心象を確かめながら考えを共有していきます。検索できるもの以外の世界はもっと豊かかも?3000年後のメディアは?人間そのものもメディアだよね?といった哲学的な話から、SNSとの付き合い方といった身近なことまで、1つのキーワードから、いろんな角度、いろんな視点でイメージをふくらませながら、それぞれのヴィジョンや世界認識の解像度を上げていきます。誰かを言い負かすようなディベートではなく、共に焚き火に薪をくべ合うような、あたたかな雰囲気です。

もう1つのクラスは、「ナラティブコース」。こちらは、プライベートレッスンのように参加者と個別に対話を重ねていきながら、個々人の「ナラティブ」を生み出していきます。「ナラティブ」とは、つまり物語。人それぞれ、子どもも、10代も、大人も、高齢者の方も、個々の物語を持っています。そして、それこそがクリエーションの源泉。とはいえ、その物語の主人公であるゆえに、語ること、それを表現することが難しい。「ナラティブコース」は、映像に限らず様々なクリエーションの根幹でもありエンジンにもなる、そんな個々の物語を、その物語に適したメディアでの表現を想定した1つのポートフォリオとして形にすることを目指します。

今回のテストプレイでは、最近どう?何にハマってる?といったカジュアルな話題からスタートし、対話を重ねながら自分の好奇心、表現したいことを少しずつ研ぎ澄ませていきました。「それならこれを見てみたら面白いんじゃない?」と、会話から様々な作品や書籍、アーティストを紹介してくれる中里さんは先生でありながら、参加者を一人のクリエイターとして捉えて、同じ目線に立ってフランクに話してくれる、少し年上の友達のようにも感じられました。そんなリラックスした雰囲気の中で、自分の「ナラティブ」へのイメージを膨らませていきます。テストプレイ終了後、今回参加してくれた10代の方からの「話し終わってから話したくなる」という言葉は、まさにクリエーションのプロセスを楽しんでいる感覚なのではないかと、これから表現されていく物語への期待感が募りました。

△「わからないことがいっぱい」でも、「何ができるか不安」でも大丈夫。みんなの悩みに答える質問BOXもあります(24H OPEN)。

「ヴィジョンリサーチコース」も「ナラティブコース」も、最終的なゴールはまだまだ謎のベールに包まれています。でも、ゴールの分からなさを、どう楽しみ舵を取っていくか?

それは個々の物語を紡いで、表現して、誰にも似てない、その人らしい人生を思いっきり楽しむことや、世界と対話しながら、自分の人生を切り拓いていくことに繋がる気がします。

また、予測できない困難や、様々な課題を抱える、これからの時代を生き抜く知恵かもしれません。映像やドキュメンタリーの制作を行う中里さんの仕事は、未だ語られていない個々のヴィジョンや物語を紡ぎ出す、ということ。そして、それを演出や撮影や編集や美術も含めてチームで行っていくということ。まさに、これらのクラスは、そんな中里さんたちの仕事の本質に触れる体験でもあるはずです。臨機応変に、そしてあたたかく突き進んでいく世界ずっとWONDERに、ぜひ疑問や想いをぶつけてみてはいかがでしょうか? きっとドラえもんのように応えてくれる気がします。

 

「世界ずっとWONDER」公式サイト

 

先生紹介

中里 龍造

実験体/映像ディレクター/DAYDREAM THEATER オーガナイザー

制度の境界面に起こる摩擦に関心をもち、映画やドキュメンタリーを中心に映像制作を行う。
主な作品に、創作あーちすと”のん”の挑戦を追いかけた『のんたれ』(YouTube2019)など。
また、2013年より「現実のゆるぎなさをほどく視点を探求する」シューティングスター・コレクティブ、DAYDREAM THEATERを主宰。リサーチャー、映像ディレクター、編集者、ミュージシャン、ラジオディレクター、キュレーター、DJ、料理人、教育者など、様々なバックグラウンドをもつメンバーがプロジェクトごとに集まり、創造力や好奇心を刺激するロマンチックなテクノロジーの研究を行う。同コレクティブの活動を2017年国際的なカンファレンス、TEDxで発表。
2020年には、悲しい記憶と重力をぶっ飛ばして、想像力のリミッターを解除するソロプロジェクトdracre(ドラクリ)名義での活動を開始。
夢は「いつか異星人に出会ったとき、ケンカせずに仲良くする技術を発明する」こと。