REPORT

「東京芸術中学」第69回 片山正通さん


デザインの生まれる現場でデザインの仕事を学ぶ
編集者・菅付雅信さんと15人の世界的クリエイターによる『東京芸術中学』。3月12日のゲスト講師はインテリアデザイナーの片山正通さんです。

今回の授業はGAKUを飛び出しての出張授業。片山さんが代表を務めるインテリアデザイン事務所「Wonderwall」のオフィスにお邪魔し、デザインの生まれる現場を見学しながら、片山さんのこれまでの仕事の数々とその仕事のインスピレーション源を紹介していただきます。




「自由」だからこそ難しいクリエーションを乗り越えて
片山さんによる講義では、自らの幼少期から振り返り語ってくださいます。「インテリアデザイナーという仕事を意識したのはずっと先のこと」という片山さんが10代の頃に熱中したスポーツや触れてきた音楽、20代の頃にアルバイトをして買った服の数々、そして現在の仕事を目指したきっかけまで、授業のために用意してくださった資料も参考にしながら、インテリアデザインに留まらない、片山さんのクリエーションの背景を捉えていきます。

そしてインテリアデザイナーとしてこれまで手がけた仕事は、当時の写真を織り交ぜながら紹介いただきます。現在は「KENZO」のクリエイティブディレクターを務めるNIGOさんがディレクターを務めていたファッションブランド「A BATHING APE」、アートディレクターの佐藤可士和さんとチームを組んで取り組んだ「UNIQLO」の店舗デザインなど、規模の大きいクライアントとの仕事が並び、生徒の皆さんからは驚きの声が上がるほど。

その中でも印象に残っている仕事に、片山さんはNIGOさんとの店舗デザインを挙げます。「洋服を20着くらい置ければいいんです」とだけNIGOさんから伝えられた片山さん。当時クライアントから様々な細かい指示ばかりでうんざりしていたというご自身にとって、「初めて与えられた自由だった」と言います。しかし、その「自由」にかえって戸惑ってしまい、「やりたいことがあるはずなのに、実際は何にも思いつかなかった」と、落ち込んでしまったそう。だからこそ、ご自身を形づくってきた音楽やファッションなどの要素を今一度振り返りながら、そして「A BATHING APE」を形づくる背景もリサーチしながらデザインを描きあげ、結果的に今の片山さんのキャリアを築くきっかけになったと言います。



デザインの背景が見える場所
授業の後半は片山さんが代表を務めるWonderwallのオフィスツアー。真っ黒な布に包まれた箱、割れたネオンライト、連写した海面を物理的に重ねた写真作品など、片山さんと親交の深い現代アーティストたちによる作品が並ぶオフィスはまるでギャラリーのようで、生徒の皆さんも思わずカメラを向けて撮影していきます。一つ一つの作品を丁寧に説明してくださる片山さん、時には自身の仕事のインスピレーションとなったと言う作品も紹介してくださいました。

その他にも、店舗デザインを考えるために欠かせない模型を制作する部屋や社員の皆さんが日頃の業務を行う部屋、資料室、さらには片山さんご自身の部屋まで、オフィス全体を紹介いただきます。現代アートのみならず、繊細な建築模型からシロクマの剥製まで、様々なものと出会う空間を通じて、数え切れないほどの要素が絡み合う片山さんのクリエーションの背景を体感していくことができました。


一人のファンでもある、デザイナーとしての心持ち
「僕はデザインを提供する人でもあるけれど、それを享受する人でもある。つまりデザインのファンなんです。それは自分の仕事にもたくさんの影響を与えてくれる。それがデザインのソースになるからこんな環境で仕事をしています」と、オフィスツアーでは、仕事観やデザイン観が垣間見れるようでした。

「まだ何者でもない今この時、これってチャンス。今ならいくらでも失敗できるし、いくらでも人に聞ける。今の僕にはなかなかできないことなんです。この時間は一番の財産だと思うので沢山出会って沢山チャレンジしてみてください」授業の最後はこんなコメントで締めくくっていただきました。



いくつもの表現に触れることの意味
デザインの現場でデザインの仕事、そしてそのインスピレーションの数々を目の当たりにしてきた今回の授業。様々な表現とそのつくり手に触れてきた芸中の生徒の皆さんにとって、これらの経験が活かされることをそれぞれが改めて確信するような時間となりました。

授業を終えた後でも、生徒の皆さんは片山さんのもとに駆け寄り話し込む姿も。「何になりたいの?」「今はどんなことが一番好き?」「みんなからも色々吸収させて欲しい」。そんな片山さんの一言一言から対話が弾んできます。GAKUの授業ではよく見られますが、授業の時間からはみでるものだからこその会話も大切していきたいと改めて感じました。

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