REPORT

トークイベント「シマオカさんに、会おう」


四万十川の源流域から、シマオカさんがGAKUに来てくれました。原発計画を「もみ消した」シマオカさんではありますが、それがシマオカさんを表す唯一のキーワードではない。それを圧倒的に感じる時間でした。

シマオカさんが暮らす地において、原発立地をめぐる住民投票条例の制定は、画期的な条例として評価されてきたのですが、文化人類学者の猪瀬さんは「その住民投票が行われなかったことこそが重要である」とし、そこに意味や意義を見出していました。同じ地に暮らす人を、賛成派と反対派というラベルリングで覆ってしまうこと。人や地域を単純化すること。そういった危うい眼差しを、横滑りさせたり包み込んだりして、別の次元にいざなってしまうような力強いシマオカさんの2時間を超えるライフヒストリーの語り。それは、まさにそういった危機からの回避を体現しているようでもありました。さらには、そのシマオカさんの個人的なライフヒストリーは、日本の農業や産業振興政策の社会史とも連なり、個人的なことが社会的であることの当然の事実が迫ってきます(例えば、シマオカさんは、珍しい生き物を見つける名人なんですが、話はそれで終わらずに、それが「出稼ぎ労働」の歴史にもつながってくるという!)。猪瀬さんとともに、シマオカさんの話に耳を傾けていると、その解釈がどんどん豊かになっていきます。

途中、隣のライブストリーミングスタジオ「DOMMUNE」でDJの音が鳴り響き、それが地鳴りのようにしてGAKUの教室に伝わってきました。島岡さんの肉厚だけども通りの良い声とそれが重なって、サウンドシステムをバックに朗詠していたジャマイカの詩人、リントン・クウェシ・ジョンソンのようにも感じられて、偶然も味方につけて、なんだかすごいことになってるな、と。このトークの翌日には、猪瀬さんがやられている埼玉県見沼の福祉農園で、農業指導を予定していたシマオカさん。「本当は、土をいじったり作物を育てていることのほうが好きなんだよ」というようなこともおっしゃっていたのが印象的だったのですが、と言うか、印象的な言葉が多すぎてまとめきるには力量が足りません。とはいえ、なによりもその存在感が放っている、咀嚼しきれないものに出会い触れること。それ自体の大切さを、学びの場であるGAKUとして非常に強く感じた次第です。

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開催ステートメントより

訪ね行かねば会えない人が、来てくれます。
尋ねたいことはたくさんありますが、
とりあえず集うことが叶えば、
それでいいと思えても来ます。
四万十川の源流域ではかつて、
原子力発電所の建設計画が立ち上がりながらも
それが中止に至った歴史があります。
シマオカさんは、
その地域史における中心人物でもあります。

それらの経緯は、
文化人類学者の猪瀬浩平さんによる
「むらと原発」という書籍に詳しいのですが、
そこで猪瀬さんはシマオカさんの語りを
「現代の民話(フォークロア)」であると言います。
今回の、この機会。予定調和的な時間には
ならないように思いますが、
それが、その今を生きる
「現代の民話」であることの
証であるような気もします。

社会問題への向かい方、
クリエーションにおける社会的公正、
文化人類学という学問のあり方など。
なにかピンとくるものがあれば、
是非、足をお運びください。

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写真:東海林広太
執筆:熊井晃史

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