REPORT

「未来都市における循環のシンボル」第1回 レクチャー


これからの都市や暮らしのあるべき姿を構想する
「未来都市における循環のシンボル」は、 「サーキュラーエコノミー実践(学芸出版社)」著者の安居昭博さんと建築家のクマタイチさんによるクラス。サーキュラーエコノミーの原理や事例を学びながら、丸の内エリアを舞台に建築的なシンボルのあり方を構想していきます。11月23日は初回授業。安居さんご自身による実践や、国内外の様々な事例に触れることで、サーキュラーエコノミーについての理解を深めていきながら、今後の創作に向けた足場を作っていきました。


経済や社会が豊かであることと、一人ひとりが豊かに生きること
「サーキュラーエコノミーとは、廃棄の出ない仕組みづくり。でも、それはネガティブなものではなく、ただ単に『ゴミを出さないようにする』というだけでもない。そこには色々な可能性が秘められています」と、安居さんは言います。また、その原理や観点を知ることは、「メガネをつけるように、物事の見え方がガラッと変わる」とも。官民一体でサーキュラーエコノミーを推進するオランダで研究を進め、現在は京都を拠点にご自身でも様々な活動を立ち上げられている安居さん。このクラスで行う建築的な構想を豊かなものにするためにも、今回の授業では、その膨大な知見や実践に触れていきます。

「廃棄の出ない仕組み」とは具体的にどのようなものか。例えば、購入せずに月額制でレンタルできるジーンズ。使い手自身が修理できるスマートフォン。木材に金具やビスを打って組み立てられた分解できる建築物。ものを購入・所有しないことであったり、直して長く使い続けることであったり、使い終わったら形を変えて活用できることであったりと、その仕組みのあり方は様々です(サーキュラーデザインの先進国と言われるオランダでは、オフィスや空港の公共施設の照明などのインテリアも、レンタルしたものが使用されていることが多いそうで、そうすることで建物を建て壊す際に捨てずに再利用されることになるそう!)。安居さんはそれらの事例を紹介しながら、「これまでは、GDP(国内総生産)が大切にされ過ぎていた。でもそれはあくまで短期的なビジネスモデルに形作られたもので、必ずしも人の幸福に比例しない。サーキュラーエコノミーは、経済や社会、人の暮らしのあり方を長期的に考えていくもの。人口増加であったり、戦争や災害によって海外からの輸送が不安定になったりと地球環境以外にも様々な問題が起こる今の時代において、『既にあるものをどのように使うか』という視点は必要になっていくはずです」と、今の時代にサーキュラーエコノミーを実践していくことの意義や必要性を強調されます。

さらに授業の中では、安居さんご自身がプロデュース・開発を手がけたお菓子「八方良菓の京シュトレン」の実食も。製造工程で切り落とされてしまう生八ッ橋の端っこや酒粕、梅酒に使った梅の実など、京都ならではのロス食材を活用し、地域の福祉作業所と連携して製造が行われています。廃棄物として捨てられてしまっていたものが、少し見方を変えるだけでその土地ならではの資源になり、ハンディキャップを抱えた人たちの新たな雇用の機会にもなる。そもそも、これが捨てられていたのか!という驚きもありつつ、「既にあるものをどのように使うか」という視点を持つことの可能性と切実さが体感されていきます。


「循環のシンボル」になりうる建築とはどのようなものか
膨大な事例をもとに、サーキュラーエコノミーの仕組みのあり方に触れていった生徒の皆さん。以降の授業では、それらの観点を踏まえつつ、「循環のシンボル」となる建築物のアイデアを構想していきます。

「『未来都市における循環のシンボル』と名付けたこのクラスでは、人の体験や行動を生み出していく建築のあり方をみんなで考えたい。それによって、建築だけでなく街の風景を少し変えていくようなことを試みられたら。『シンボル』とは、何かを象徴的に表す形。言葉だけ聞くと、タワーやモニュメントのような『インパクトのあるビジュアル』が想像されますが、重要なのはそこにどんな意味やメッセージが込められているのか。そして、それを人に伝えていくために、形だけでなく体験が伴っていること」と、クマさん。また、シンボルの役割として、「気づかせる」「きっかけをつくる」「思い出させる」という3つのキーワードが挙げられ、そのあり方を表す例が紹介されます。

例えば、長崎原爆の被爆者を悼むために1969年に建てられた「平和の泉」では、毎年ボランティアで100名あまりの人々が集い、平和祈念像の清掃活動が行われています。「この祈念像が、被爆者を悼む気持ちの向かう先になっていることがとても大切。清掃や祈念像を取り巻く様々な活動が起こっていることによって、シンボルとして成り立っている」と、クマさんは言います。また、循環を促す建築物の例として、安居さんによって野外音楽イベント「森、道、市場」で展開された廃材を使った構造物「京都サーキュラータワー」が挙げられます。そこでは、サーキュラーな実践により作られた飲食の販売とともに、イベント内で出た生ゴミを持ち込める「体験型コンポスト」が設置され、参加者のサーキュラーな行動を誘発するような場が実現しました。様々な事例を紐解いていくことで、建築的な構想力が社会を動かしてきたことが実感されます。

この街でどのような「循環」を生み出すべきか?と、都市や人の暮らしにおける意味や解釈を深めていくことと、それが起こりうるしつらえや形を捉えていくこと。それらを同時に進めるのは、とても難しいことです。安居さんからは、「建築は様々な文化と密接に結びついている。サーキュラーエコノミーを推進していく上で、あらゆる分野の中でも特に、建築における『循環』を考えることは重要。でも、とても難しい試みだと思います。これからアイデアを考えていく上で行き詰まったり悩んだりしたら、授業外の時間でもぜひ気軽に連絡してください。一緒に挑戦していきましょう!」と、生徒の皆さんへエールの言葉が贈られました。


次回は、丸の内エリアでのフィールドワーク
次回は、創作の舞台となる丸の内エリアでのフィールドワークを実施。サーキュラーエコノミーの観点を踏まえながら都市を捉えてみると、どのような気づきや発見、また街の可能性が浮かび上がってくるのか。街での体験をみんなで分かち合い、意見を交わしつつ、以降の制作に備えていきます。

写真・執筆:佐藤海

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