REPORT

関係美食論 最終回

関係美食が現れる

「関係美食論」の教室は、馬喰横山のミシュラン1つ星レストラン「nôl」。シェフ 丹野貴士さんをメイン講師に迎え、東京という都市で育まれた地元の食材や生産者との出会いを通じて、美食を関係から捉え、「一汁三菜定食」という料理に落とし込んでいきます。

最終回となるこの日の授業では、フィールドワークでお世話になった生産者の方々もお招きし、それぞれのメニューに関する生徒の発表とシェフが調理した定食を囲んで、一堂に会しながらの実食の場を持つことが叶いました。この場そのものが、「関係美食」を現す機会にもなりました。

東京の地産地消で叶える「一汁三菜定食」

このクラスでは、フィールドワークでリサーチした西野農園(国立市)のお米とかぶ、門倉農園(江戸川区)の小松菜、そしてKinoko Tokyo(大田区)のしいたけを使用し「一汁三菜定食」の「三菜」のメニューを生徒たちとシェフの皆さんが共に考案しました。最終発表では、「三菜」のグループごとにフィールドワークで目撃したことや感じたこと、そこで見出した「intimacy(いとおしさ)」、そしてそれらの食材をどのような思いでメニューとして考案したのか、発表していきます。

この日の最終発表に足を運んでくれた生産者は、西野農園の西野さん、Kinoko Tokyoの栗原さん、そして、とうふ工房ゆうの大久保さん。青梅に位置する「とうふ工房ゆう」へのフィールドワークは残念ながら叶いませんでしたが、今回は付け合わせやお味噌汁にお豆腐を使用しています。

一品目は、「西野農園のあやめ雪かぶで叶うブリのカブ巻き」。サポートシェフの堀中翔太シェフ(ホテル椿山荘)と共に考案。薄切りしたカブで低温調理したブリを巻いた一品です。むらさき色がきれいなあやめ雪かぶの様々な食感を楽しんでもらうため、薄切りにするだけではなく、すりおろしたり、栄養のある葉の部分は、ブリと一緒に巻き込むなど、「意外性」を込めています。「フィールドワークで西野さんのお話しを聞いて、「『いとおしさ』は『愛だけでなく「労」と書く」ことがとても腑に落ちた。食べるという行為を通して、農家の皆さんの「努力」を感じてほしい。私たちが感じた西野農園の「いとおしさ」や「優しさ」を出汁の柔らかさで表現している」と発表。さらに、西野農園のお米「キヌヒカリ」は白米でいただきました。

二品目は、「門倉農園の小松菜ディップ」。メイン講師の丹野貴士シェフ(nôl)と共に考案しました。「都市型農業では土地が限られるため、小さい敷地内で出来る限りたくさん収穫するための工夫が凝らされており、門倉農園にはいきいきとした小松菜が、ぎゅうぎゅうにひしめきあっていた。一面に広がる緑色の風景は、衝撃的すぎて忘れることができない」と発表する生徒。その光景を食べる人たちにもイメージしてもらいたいと願い、フレッシュな小松菜と乾燥させた小松菜が用意されました。ディップには、「とうふ工房ゆう」の豆腐と鹿肉を使用。実際に、フィールドワーク後「nôl」では門倉農園の小松菜をディナーコースで提供しています。

三品目は、「福しいたけのアイスクリーム」。サポートシェフで昨年の食の授業「限界美食論」ではメイン講師を務めた野田達也シェフ(8go)と共に考案。しいたけの味が苦手な生徒がいるこのグループでは、しいたけ嫌いの人でも食べれるメニューということで、アイスクリームが完成しました。麹ミルクや出汁が使われ、トッピングには麹みつや白ごま油など、定食と相性の良いデザートに仕上がっています。「『福しいたけ』は東京都指定の「就労継続支援B型」福祉事業として生産されている。様々な生きづらさを抱えながら仕事をする人々の、ワクワク感や「やりたい」という気持ちを大切に仕事と向き合うそうだ。ここは、人と人の関係が育まれる場所。そんなあたたかさを想像してみてほしい」と発表。さらに、ほかの生産者のお二人に「ビル内で農業に取り組む都市型農業をどう思うか」と生徒から質問が。「東京都の食料自給率の低さに深刻な危機感を感じているので、生産量を増やしていく必要がある。私は畑のあり方に対して従来の畑の方が正しい、などとは全く思っていない。それぞれができるやり方を模索していきたい」と西野さんが回答していたことが印象的でした。

シェフたちの料理で関係を紡ぐ

この日は、nôlのオープンキッチンで丹野シェフ、野田シェフ、堀中シェフが実際に調理と盛り付けを実施。ミシュランシェフたちが調理する姿や、その独創的な盛り付けに生徒も生産者の皆さんも目が離せません。実際に足を運び、直接お話しを聞いた生産者の皆さんが大切に育てた食材を美味しく、美しく提供するため、生徒たちの声に耳を傾けアイデアを凝らしながら何度も試作を重ねてくださいました。これに、生産者や生徒の皆さんがとても驚き喜ぶ姿が忘れられません。また、それは消費者である私たちが生産者に想いを馳せ、「いとおしさ」を見出しながら調理したり、口にすることの必然性を再認識させてくれました。そのように、生産者、シェフ、そして生徒の思いがそれぞれに込められた定食を口にするということは、まさに「関係」が詰まった食事を身体に取り込む行為。東京という自分たちが暮らす街で生産を続ける人々やその風景をどのように守り続けていけるのか。ここで生まれた「関係」や芽生えた「いとおしさ」を紡ぎ続けていきたいと切望します。

 

撮影:Takuya Yamauchi
文:松村ひなた