REPORT

「まちの宝物と共に生きる」第5回 中間発表会


「みんなで考える場」としての中間発表会
「まちの宝物と共に生きる」は、世界的建築家・伊東豊雄さんが主催する建築塾「伊東建築塾」による建築のクラス。講師は、昨年度に引き続きPERSIMMON HILLS architectsの廣岡周平さんとKASAの佐藤敬さん。全10回の授業を通じて、羽田地区エリアを舞台に「まちの宝物」を捉えていくことから、建築や空間を構想していきます。

12月22日の第5回は、中間発表会。講評者には、廣岡さんと佐藤さんとともに、特別講師の伊東豊雄さん、百田有希さんをお迎えし、一人ひとりのアイデアにフィードバックをいただきながら、アイデアをよりよく発展させていくための手がかりを掴んでいきました。







実感のこもったアイデアを前に議論が弾む
実際のまちを訪れ、「まちの宝物」になりうる風景やそのあり方を自分なりに捉えていくこと。それをまちの中でさらに育み、他の人と分かち合うための形を思い描いていくこと。具体的な敷地からインスピレーションを受けながら、建築や空間を構想してきたこれまでの授業。中間発表ではこれまで制作を進めてきた模型やスケッチとともに、それぞれの「まちの宝物」に対する想いが語られていきます。講師の皆さんは、その実感のこもった言葉を真摯に受け止めつつ、互いに議論を交わし合いながらフィードバックを贈っていきます。

例えば、「住宅街の裏にある路地が宝物のようだと思った。そういう空間が、まちの中のほっこりできるスポットになったら素敵。住宅の入り口に続く小さい小道を閉じられた空間ではなく、パブリックな憩いの場にしていきたい」というアイデアには、「私有地を個人に留めずにまちに開いていくことの可能性を感じているんだね。一つではなく、まちのいくつもの場所でそれが行われていたら、家が『憩いの場』に囲まれるような、新たなまちと人の関わり方が生まれるかもしれない」「路地に面している周りの建物のあり方と一緒に考えてみよう。マンションによって分断されてしまった人の結びつきを取り戻すような場所になるといいね」といったコメント。

「海を眺められる場所が、新たなまちの宝物になると思った。そして、このまちに点在している神社が、水害を防ぐために建てられていたことを知った。海と神社。関わりが深いものなのに、堤防や高い建物によってその関係が断絶されてしまってる。それを取り戻すための『海の見える神社』を考えたい」というアイデアには、「その繋がりを発見できたことがまずすごいこと。新しい空間をつくることを通して、元々まちが持っていた歴史や可能性に触れられる体験が生まれたら素敵」「海と神社が関わり合うことを通して、まちの人が暮らしと海とを連続的なものとして感じられるようなものになったら、日常がより豊かになるね」といったコメント。

さらに、「僕は田舎に住んでいて、神社は唯一の公共建築だった。子どもたちが日常的に遊びにこれる場所になれば、防災の観点でも大切。いつでも行けるコミュニティを作れたら、神社の意味を作り直せるかもしれない」といった伊東さんの言葉も、とても印象的でした。



人の暮らしが営まれる空間を設計する、ということのリアリティ
生徒の皆さんのアイデアの舞台である「羽田地区エリア」。人の生活の気配が感じられるような路地や昔ながらの街並みが魅力である一方で、防災的な観点での課題を多く抱える地域でもあります。次回以降の授業では、そういったまちの歴史背景も捉えていきながら、引き続き創作に臨んでいきます。

大田区と連携し、このエリアの防災まちづくりに携わるUR(独立行政法人都市再生機構)の鈴木さんからは、「皆さんの発表を受けて、このまちにいろんな宝物が埋まっていることに改めて気づけた。地震や火災の被害を防ぐために道を整備したり、小さい公園を作ったりと色々なことをやっていますが、防災的な観点だけではなく、それらの空間をまちの豊かな場所にしていくことも大切だと感じています。皆さんのアイデアをぜひ参考にさせていただきたい。最終発表も楽しみにしています」と、コメントが贈られます。

また、伊東さんからは、「自分たちが住んでいるような場所だけではない、色々なまちの風景があるということを引き続き感じながら、まちと関わっていってもらえたら。建築家の意図と防災的な観点は、どうしても意見が食い違う時がある。安心安全のための方法は一つじゃないと僕は思う。でも、そんなに単純なことでもない。いつも難しいと思ってるところです」と、建築家としてのリアリティが窺い知れるような言葉が贈られ、授業が締め括られました。


次回から、創作の後半戦がスタート
「大学生がやっても難しい課題。実際のまちの姿と自分がやりたいことをどうやって組み合わせていくか。難しいけど、建築においてとても重要なことです。応援してます」と、百田さん。今回のフィードバックを踏まえながら、次回からも引き続き制作が進んでいきます。

写真・執筆:佐藤海

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