REPORT

「まちの宝物と共に生きる」第2回 フィールドワーク


まちで「宝物」だと思える風景と出会う

「まちの宝物と共に生きる」は、世界的建築家・伊東豊雄さんが主催する建築塾「伊東建築塾」による建築のクラス。講師は、昨年度に引き続きPERSIMMON HILLS architectsの廣岡周平さんとKASAの佐藤敬さん。全10回の授業を通じて、羽田地区エリアを舞台に「まちの宝物」を捉えていくことから、建築や空間を構想していきます。

11月24日の第2回では、創作の舞台となる羽田地区エリアでのフィールドワークを実施。まちの表情や人の営みをじっくりと観察していきながら、それぞれが発想を広げていくためのインスピレーションを得ていきました。


じっくりとまちを歩くことで見えてくるもの

「まちの宝物」と「共に生きる」という暮らしのあり方や、それが体現されているまちづくりの例に触れていきながら、このクラスのテーマを紐解いていった前回。今回はそれらの視点を実際のまちに向け、それぞれが「宝物」だと感じるまちの風景や営みを捉えていくことで、創作の手がかりを掴んでいきます。

「自分の好きな風景やなんとなく気になったものを写真に収めながら歩こう。その時すぐ言葉にならなかったとしても、あとで振り返って分かることもあるはず。でも写真を撮ることに夢中になりすぎず、五感で感じることも大切にしよう」と、佐藤さん。「道の幅や空間や置いてあるものを、手のひらや歩幅などを使って自分の身体で測ってみよう。なんとなく『細い道』ではなく、具体的にどのくらいの大きさかを把握しておくと、アイデアを考える時にも役立ちます」と、廣岡さん。講師のお二人からのそんな言葉も携えながら、今回はこのエリアのまちづくりに取り組む「UR(独立行政法人都市再生機構)」の皆さんにも同行いただき、少人数でのグループでフィールドワークを進めていきました。

細い路地に、昔ながらの佇まいが残る建物やお店、高架下に沿って広がる広場空間、空に開けた河川敷。「羽田地区」と一口にいっても、そこには様々なまちの風景があります。立ち止まってよくよく観察してみたり、グループのメンバーと会話をしながら他の人の視点に触れたり、通りがかった地域の方に挨拶をしたり。およそ1.5時間をかけてじっくりとまちを歩く。それだけで、色々な出会いや気づきが訪れてきます。


まちで「宝物」を見つける喜びと、分かち合う喜び

フィールドワークの後には、それぞれが写真に収めた「まちの宝物」だと感じる風景を紹介しながら、そこでの体験を分かち合います。

例えば、「太陽に明るく照らされた家の外壁。家の前に空地があることで建物の壁面全体に太陽の光が当たっていてとても綺麗だった」「家と家の感覚の狭いところに向かい合っているバルコニー。人の交流を生むような空間が生まれていて、それが宝物のように感じる」「建物の隅にポツンと置いてあった黄色い石。その奥にある柑橘類の実が生っている木との風景の重なりも感じて良いなと思った」と、生徒の皆さんからは様々な着眼が寄せられます。それらは何気なく通り過ぎてしまうようなものでもありますが、そもそもまちで自分が大切に思える風景と出会う体験や時間そのものが、かけがえのなく、とても意義深いものであるように感じられます。

講師のお二人からも、生徒それぞれの体験を受け止めながらコメントが贈られます。「まちの中でバラバラに存在しているものの連続性や関係を探ること。それを自然にやっていることがとても興味深い。面白い視点!」「何かと何かの境界部分のあり方。そこに人のコミュニケーションが生まれているのかどうか、というところに意識が向いているんだね」「まちをただ見るだけではなくて、その中に入り込んで体験してみようとする視点。自分の実感を広げていくことが宝物になっていくかもしれないね」と、着眼や発見の奥にある、それぞれの創作の手がかりのようなものを言葉にしていくようにコメントが贈られていく様子がとても印象的でした。また、「自分が宝物だと思っていることは、きっと他の誰かにとってもかけがえのないものになりうるはず」といった初回授業での廣岡さんの言葉のように、それぞれの心の動きや着眼を分かち合うことの喜びも、体感していくような時間になりました。
まちでの体験をクリエーションに繋げる

次回は、手を動かしながらアイデアを少しずつ形にしていく「エスキス」に取り組んでいきます。フィールドワークでのそれぞれの着眼が、どのように建築や空間のアイデアに繋がっていくのか、今後の展開がとても楽しみです。

写真・執筆:佐藤海

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