「まちの宝物と共に生きる」第1回 レクチャー
まちと豊かに関わり合うための建築を構想する
「まちの宝物と共に生きる」は、世界的建築家・伊東豊雄さんが主催する建築塾「伊東建築塾」による建築のクラス(今回で5年目となるこのクラス。昨年度の様子はこちらをご覧ください)。講師は、昨年度に引き続きPERSIMMON HILLS architectsの廣岡周平さんとKASAの佐藤敬さん。今年度は全10回の授業を通じて、羽田地区エリアを舞台に「まちの宝物」を捉えていくことから、建築や空間を構想していきます。
11月17日(日)の初回授業では、「まちの宝物と共に生きる」というこのクラスのテーマを紐解いていきつつ、実際に手を動かしてみることで、今後の創作に向けたウォーミングアップをしていきました。
「まちの宝物」と「共に生きる」という暮らしのあり方
「まちの宝物」とはどのようなものか。それと「共に生きる」とは、一体どういうことなのか。そのような暮らしのあり方が体現されている例の一つとして紹介されたのは、神奈川県真鶴町のまちづくり条例「美の基準」。この条例には、まちの中にある美しさや豊かさを、まちに関わる人みんなで共有し守っていくための「基本的精神」がおよそ70項目にわたり記されています。また、その内容は「強制されるものではなく皆で創っていくもの」として、誰もが参加し加筆修正を加えていくことが推奨されています。
例えば、「眺める場所」という項目では、「豊かな風景を眺められる場所はまちの財産であるため、独占せずみんなで分かち合える空間にすること」。「静かな背戸」という項目では、「建物の裏にある静かで安らげる空間を維持するために、そこから見える風景や自然の生態系を守るよう務めること」。それは、まちづくりにおける「ルール」でありながら、定義されることで初めてその豊かさに気づけたり、まちをより大切に感じられたりするためのものであるようにも思えてきます。「宝物に思えるような大切なものやかけがえのないものは、自分の個人的な感覚や想いから始まっていることが多いから、その価値を測ることができない。でも、自分が宝物だと思っていることは、きっと他の誰かにとってもかけがえのないものになりうるはず。そういうことが『美の基準』では大切にされているように思います。この授業でも、そういった視点で建築や空間のあり方を考えていけたら」と廣岡さん。
さらに、「まちの宝物」を見つけていくためのヒントとして、実際に廣岡さんと佐藤さんが「宝物」だと思った国内外の風景やそこでの着眼が紹介され、建築家のお二人のまちの見方や捉え方に触れていくような機会にもなっていきました。
「人の居場所」になりうる空間とはどのようなものか
レクチャーの内容を踏まえて後半では、実際に手を動かしながら、アイデアを構想していくためのウォーミングアップをしていきます。テーマは「大切にしたいまちの居場所」。「形容詞が重要。自分の身体感覚から考えてみてほしい。自分はそこでどういうふうに居たいのか。宝物になりうる場所は、必ずしも特別なものではなくて、ただなんとなくそこに居られる、というような場所かもしれない」といった廣岡さんの言葉も手がかりに、それぞれ想像を広げていきながら、段ボールや紙コップ、ストロー、野菜、植物など、生活の中の身近な素材を使って形にしていきます。
完成したら、生徒の皆さんそれぞれが考える「人の居場所」としての空間のあり方を、模型と言葉で発表します。「放課後に友達と集まって遊べる秘密基地みたいな場所」「商店街の一角にあって買い物帰りのお母さんとか子どもとか、誰でもふらっと気軽に立ち寄れる場所」「空間のいろんなところに寝転がることができて、みんながリラックスできるような場所」と、生徒の皆さん。
講師のお二人はそんな一人ひとりに対し、「だれでも入れるオープンな場所って、意外に人と人の親密な関係を築きにくい。開いてるけど少し閉じてる、秘密基地みたいな雰囲気がある場所は、確かに人の居場所になりやすいかも」「商店街の中という設定がとても良い。空間は一見公園みたいだけど、そこに集う人たちの手で空間を作っていけるような予感がある。『リビング』『寝室』といった名前のつく前の、ゆるやかな場所ができているね」と、それぞれの想いと作り上げられた形とを照らし合わせながら、コメントを贈る様子がとても印象的でした。
次回は、羽田地区エリアでフィールドワーク
次回の授業では、創作の舞台となる羽田地区エリアでのフィールドワークを実施。実際の場所に身を置き、町の表情や人の営みをじっくりと観察していきながら、それぞれが発想を広げていくためのインスピレーションを掴んでいきます。
写真・執筆:佐藤海