「東京芸術中学」第64回 会田誠さん
アーティストが美術史を学ぶ意味
編集者・菅付雅信さんと15人の世界的クリエイターによる『東京芸術中学』。2月5日のゲスト講師はアーティストの会田誠さんです。
昨年に続き今回で芸中3度目の登壇となる会田さん。今回は会田さんオリジナルの年表などの資料を参考に、「美術史」についての講義です。過去のアーティストの作品を実例に、時にはご自身の制作背景も説明いただきながら、アーティストにとって「美術史」を学ぶことがなぜ大切なのかを捉えていきます。
ゴヤを通して考える芸術とはなにか
「いつも頭の片隅で美術史を参照しながら制作しています。だけど、その美術史は独学したものなんです。なぜなら中学でも高校でも大学でも、周りの大人は美術史を教えてくれなかったから。今日は現役のアーティストが美術史を道具としてどのように扱っているのかを見てもらい、みなさんにも挑戦してもらおうと思います」。会田さんのそんなコメントから講義はスタート。
まずは会田さんがオリジナルでつくった美術史年表の中からフランシスコ・デ・ゴヤを例に、「芸術とは何か」というそもそもの問いに向き合っていきます。当時、貴族に雇われ宮廷画を描いて豊かに暮らしていたゴヤは、フランス革命を通して祖国スペインから亡命。そのような状況下で、これまでの宮廷画とは打って変わりスペイン市民が虐殺される様を描いた『マドリード、1808年5月3日』を通じて、彼は初めて「芸術」作品を描きあげたと会田さんは言います。「この作品は誰かに注文されて描いた絵ではなく、描かざるを得ず自らの想いで描いた絵。近代芸術の条件は『職人が描くものではない』ということを含むと思うんです」。そんなコメントと共に、美術史を通じて芸術そのものの定義を捉えていきます。
さらに生徒のみなさんには「僕がいつも美術史を利用している例を紹介します」というコメントとともに新たな資料が手渡されます。「アルカイック/バロック」、「非表現主義/表現主義」など。資料には会田さんがご自身で導き出した指標となるような対立概念とそれに対応する具体的な歴史上の芸術作品が並べられています。絵画や立体作品、中には新旧ウルトラマンなど、とても幅広い作品群が、これらのキーワードで説明をされていくと、どんどんとその意味合いを受け取れていく感覚になります。「初代ウルトラマンは柔らかい素朴なアルカイック調、でも最近のウルトラマンはけばけばしいバロック調。今のウルトラマンにはどこか過剰な印象を受けませんか?こんな風に僕は普段から人間がつくりあげたものを分類・比較しながら観察しているんです。そして、そのためには美術史の知識が欠かせません。」と会田さんは言います。
オリジナリティの条件
「アルカイックでもバロックでも、どちらかが偉くてどちらかが偉くないとかではなく、どちらもなくてはならない要素。それは人間そのものがもともと矛盾したものを抱えているから。それを理解した上で自分はアーティストとしてどの分野のどの位置にポジションを取るか。これを念頭に置くことがアーティストとして活動していくために必要なことだと思います。そして、その判断基準となるのがこれまでの美術史なんです」。会田さんからはこんなコメントと共に授業を締めくくっていただきました。
美術史という体系を捉えながら、自分の作品をつくりあげる
3月5日に予定する次回の会田さんの授業では、今回配布された2種の資料を参考に、自身の作品は美術史のどこに位置付けられるのか、もしくは位置付けられたいかを考えながらオリジナルの絵画を描きあげていきます。