「東京芸術中学(第4期)」第15回 「言葉の編集」課題発表
インタビュー・ノンフィクションを書く
編集者・菅付雅信さんと13人の世界的クリエイターによる『東京芸術中学』。9月21日(土)は、ワークショップ「言葉の編集」の最後に出た夏休みの課題発表を行いました。課題は、「自分の周りにいる大人のインタビュー・ノンフィクションを書く」こと。身近な大人でも、しっかり向き合って話に耳を傾けることはそうそうありません。普段の暮らしが言葉の編集の舞台になりました。
これまで知ることのなかった一面を引き出す
この授業では、事前に菅付さんがインタビューを抜粋したものをもとに、それぞれが発表を行います。皆さんがインタビューをした大人たちは、母や父、祖父などのご家族や、アーティスト、写真家などです。
例えば、父方の祖父。「令和の時代では絶対に体験できない、波瀾万丈な人生経験を持つ」という言葉とともに発表が始まりました。第二次世界大戦中に父が他界し、一度も会ったことがないこと。熊本に生まれ、川遊びや釣りをして遊んだ小学生の頃の平和な思い出。中学進学時に、叔母に養子として引き取られ東京に移住したこと。叔母夫婦が離婚し、家庭環境の乱れにより毎日がどん底のように感じられ、何もやる気が起きなかったこと。そして、抵抗のかたちとして、一度だけ家出をし、満月の夜に近所の小学校の校庭をあてもなく歩き回ったこと。自分の祖父が積み重ねてきた時間へ想いを馳せる機会になったようです。
例えば、会社を経営するお父さん。「父と私は性格が真逆で、私は優柔不断で内向的だが、彼は思い切りがよく外交的で、この性格は仕事にも影響していると思う」とお父さんを紹介します。彼が、20歳の頃にオーストラリアへ修行の旅に出たこと。自身の事業をやりたくて会社を立ち上げた話。「物事を多方向から見ること」を大切にしていていること。インタビューを通して、普段の生活では知ることのなかった、お父さんの学生時代や仕事への思いなど、新たな一面に触れることができたようです。
例えば、家族付き合いのある写真家。彼を選んだ理由を、「自分の周りにいる、経験や意見について聞いてみたい大人の中で一番先に思いついたから」と語ります。「いつも私の絵を褒めて認めてくれるが、相談にも乗ってくれる。決して考えを押し付けない特別な存在です」と続けます。そして、写真家になったきっかけや、自分のスタイルを見つけることの難しさ。人と同じことをやるのが嫌いで、とにかく誰もやっていないことをやりたいと思って生きてきたこと。どんなものを綺麗だと感じるか、など彼の価値観や仕事観が語られました。最後に、「70歳の今も挑戦を続ける姿は、いつも新しく若々しい印象がある。彼から「かっこいい」と言われるような絵を描いていきたい」という言葉で発表が締めくくられました。
管付さんからは「皆、とても良く書けていて、非常に面白い内容だった。とても感心しました」という、温かい言葉が贈られました。
書くことを習慣づける
夏休み前から引き続き、ワークショップ「言葉の編集」は計3回開催されました。全ての回で、言葉との向き合い方や、言葉を読むことの重要性が語られました。それは、人や自分とより良く向き合っていくこととつながっていくように感じられます。そのためにも、今回の授業でも、「本を読むことを習慣付けてほしい。毎日読む時間を取ることが大切です」と菅付さんは念を押します。次回の授業からは、後半のゲスト講師を招いての開講です。皆さんとゲスト講師たちとの交流が楽しみです。
執筆・写真:松村ひなた