「東京芸術中学(第4期)」第11回 高速クリエーション史②
産業革命以降の、クリエーションと社会のあり方の変化を見つめる
編集者・菅付雅信さんと13人の世界的クリエイターによる『東京芸術中学』。7月20日(土)は、芸中ディレクターの菅付さんによる「高速クリエーション史」の後半を開講。クリエーションの歴史を2回に分けて学びます。前半の授業では、旧石器時代からルネサンスまでを対象に、その時代ごとの、クリエーションの発展における「ターニングポイント」を見つめていきました。今回の授業ではその続編として、産業革命以降から現代までの「クリエーション史」を辿っていきました。
キーワードは、「クリエーションの民主化」
「これまでは芸術作品や創作行為は、社会的立場の高い人の『娯楽』であったり、高い技術が求められる『職業』であったりと、一部の人に閉じられたものだった。しかし産業革命以降、技術の発展や社会の変化によって、誰でも触れたり作ったりすることができるような『クリエーションの民主化』が進んでいきます」と菅付さん。
例えば、岩波書店が先駆けとなって誕生した「文庫本」は、誰もが手軽に文学に触れられるようになったことで、個々人の学びの機会が豊かになり、市民の知識の向上や個人主義の発展にも繋がっていきました。そのほかにも、「クリエーションの民主化」において、その考え方をより普及させた代表的な例として、1919年にドイツに設立された美術学校「バウハウス」を紹介。そこでは、「芸術は特権的なものではなく、誰しもが教養として触れるべきである」という「総合芸術」の考え方が提唱され、当時は革新的なものでしたが、バウハウスを卒業した様々なデザイナー、アーティストの活躍により社会に広がっていきました。その傾向は、コンピュータやスマートフォンが普及し、誰もがSNSで表現をしたり、ZINEなどを制作したりしている現在の表現環境ともつながっていきます。
芸術に触れたり、創作に取り組んだりすることが少しずつ身近になっていく過程の中で、「作品やその制作において、技術のみならず、コンセプトや社会に対するメッセージといったものが重要視されるようになった」と菅付さん。例えば、トイレの便器にタイトルをつけることで美術作品として発表した、美術家のマルセル・デュシャンによる「泉」。4分33秒という演奏時間のみを設定しその間沈黙をし続けることで、既にその場所にある音を音楽作品として発表した、音楽家のジョン・ケージによる「4分33秒」。このような、既存のクリエーションのあり方への疑問や社会に対する批評性を持った作品が発表されていき、これらは現在の「現代美術」「現代音楽」と呼ばれる領域の起点になっていきました。
歴史を通して、現在を見つめ直す
前半、後半に分け、計5時間の授業を通して3万年の歴史を、まさに「高速」で遡っていった本授業。普段の生活の中で当たり前のように触れているものや聞き馴染みのあるワードでも、その成り立ちや背景を見つめることで改めて新鮮なものとして感じられたり、新たな疑問や視点が浮かび上がってきたりします。膨大なリファレンスに圧倒されつつも、授業の最後には自分なりの考えや質問を菅付さんにぶつけていく生徒の皆さんの姿がとても印象的でした。
執筆・写真:佐藤海