REPORT

「東京芸術中学(第4期)」第10回 小田原のどかさん


課題は、キュレーションをすること
編集者・菅付雅信さんと13人の世界的クリエイターによる『東京芸術中学』。7月13日は、彫刻家であり評論家の小田原のどかさんによる2回目の授業。今回は、課題の発表を行います。前回の授業で小田原さんから発表された課題は「キュレーションをする」こと。小田原さんの第一回目の授業で訪れた展示『記憶:リメンブランス―現代写真・映像の表現から』(東京都写真美術館)と同様に「記憶」がテーマです。自分の作品でも、他人の作品でも良いので、3つ以上の作品を集め、それぞれの作品に対する説明文を書いてきてもらいます。




記憶や不在を留めておくということ
小田原さんもおっしゃっていたように、「『キュレーションをする』という課題はとても抽象的」であり、その捉え方に生徒の皆さんは各々考えをめぐらせたようです。自身の作品や持ち物、他者の作品、社会問題や歴史を題材にしたものまで、様々なキュレーションのかたちが持ち寄られ、それぞれがテーマとして持ち出した「記憶」とともに発表が行われました。

自身の人生を振り返り、「長く共に過ごしてきたもの」を直感的に選出し背景と共に発表したひと。写真を選出し「戦争の記憶」を展示方法と共に提案したひと。「コロナの記憶(ソーシャルディスタンス)」から距離感をテーマにテクノロジーアートの展示会を提案したひと。「旅の記憶」というテーマに基づき旅中で撮影した風景を選出し、絵を描いて発表したひと。自身がこれまでに手掛けた作品から3点選出したひと。

ひとりひとりの発表に真剣に耳を傾け、言葉を選びながら講評する小田原さんの姿が印象的でした。「今は亡き母との記憶」をテーマに、思い出深い音楽や絵などをキュレーションした生徒には、大プリニウスが紀元前に書いた「博物誌」を推薦し、「この物語では、旅立ってしまう恋人の影をなぞったことが絵画の始まりだと書かれている。次の日の朝、恋人は旅立ってしまったが影の跡だけが残る。人類の特徴は、他人の不在を認識できること。今はいないけれど、昨日はいた。そういう記憶や不在を留めておいたことが絵画の根源だということが書かれている本なので、ぜひ読んでみてほしい」と言葉を送りました。


記憶を誰かと共有することで新しい展開や発見が生まれる
「見応えのある発表だった」と噛みしめる小田原さん。「『記憶』には、自分や他者の記憶、社会問題や歴史としての記憶がある。これを皆さんが考え抜き、形にしてきてくれたので見応えがあった。誰かに伝えるために記憶をまとめるという作業はとても大事。そうしてまとめないと、言葉や形にならないものがたくさんある。誰かと共有することで新しい展開や発見が生まれることが多々ある。これを大事にしてほしい」と総評しました。また、キュレーションのポイントとして「私は美術展に通い慣れている人と、初めてアートに触れる子供達がそれぞれ良いと思うものは矛盾しないと思っている。オーディエンスは誰なのかを想像し、あらゆる人たちが楽しめるような表現を試してみてほしい」と語りました。

執筆・写真:松村ひなた

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