REPORT

「東京芸術中学(第4期)」第5回 瀧本幹也さん

写真家の仕事の奥行きと幅の広さに触れる
編集者・菅付雅信さんと13人のクリエイターによる『東京芸術中学』。6月7日は、写真家の瀧本幹也さんによる1回目の授業です。広告写真をはじめ、グラフィック、エディトリアル、自身の作品制作活動、コマーシャルフィルム、映画など幅広い分野の撮影を手がける瀧本さん。今回は過去の作品を実例にあげ、その背景を解説いただきながら、写真家という仕事におけるクリエーションに向き合う姿勢を学んでいきました。



偶然性を呼び込むために
最初に紹介された作品は、ラフォーレ原宿の広告写真。ダイナミックなこの作品の制作背景を伺います。これは、芸中第二回で講師を務めた矢後直則さんと制作したもの。矢後さんのイラストの世界観を実写に起こして写真で表現しています。「実写なりの強さがある」と瀧本さんの熱意が伝わります。

「世界卓球」や「グリーンレーベル」の広告写真、「ミスターチルドレン」のアルバムカバー写真。「伊右衛門」や「ポカリスウェット」のCM、実写版「ONE PIECE」のティーザー動画など、誰もが目にしたことがあるような作品の数々に、生徒の皆さんは驚きの表情を浮かべていました。

「僕の写真には『騙し絵』が多い」と、様々な作品に仕掛けられた創意工夫を明かしてくれる瀧本さんに、「コンピューターでの合成は良しとしないのか?」と管付さんから質問が。「レタッチなどはもちろんしているが、合成はできるだけ避けるようにしている。最初から合成を目指すと偶然性が入り込まない」と瀧本さん。「手を動かしていくと『こっちの方が面白いかも』と気づくことがある。それをどこかで期待している自分がいて、意図的に合成を選ばないようにしている」と語る姿が印象的でした。また、コンピューターでの作業は「頭の中のイメージを実現しているだけなので、感動がない」と語り、「高揚感を常に求めている」と明かしました。


「好き」を手放さなかった瀧本さん
瀧本さんが写真家になろうと決意したのは、小学5年生くらいの頃。趣味として写真に打ち込みましたが、当時、写真には根暗で真面目なイメージが強く、隠れた趣味として友人には秘密にしていたそうです。

高校3年生の時、高校を中退して写真の世界に飛び込む決心をし、地元の愛知県から上京。「『良い学校や会社に入らなければ』という社会的風潮が強かった時代で、そこに反発したかった。一度きりの人生なので、自分が好きなことを仕事にしたいと願っていた」と当時を振り返ります。スタジオに所属し、多忙な日々を過ごしましたが、「好きなことをやれている」という思いの方が、辛さを上回っていたそうです。


課題は「架空の映画ポスターを制作する」こと
瀧本さんは、是枝裕和監督とタッグを組み、長編映画『そして父になる』『海街diary』 『三度目の殺人』の3本を撮影。映像だけではなく、ポスターの写真も担当することが多いという瀧本さん。「映画のポスターにはティザーポスターと本ポスターの2種類がある」と説明。映画『怪物』『朽ちないサクラ』や、大河ドラマ『青天を衝け』『篤姫』など瀧本さんによる様々な作例を見せ「本ポスターは公開直前に掲示される説明的なもので、ティザーポスターは公開2ヶ月ほど前に掲示され、作品の世界観やトーンを表現するもの」と語り、2種類を比較しました。

瀧本さんから出された課題は、「架空の映画ポスターを制作する」こと。映画の内容や出演者は自由です。プロの現場と同じように、ティザーポスターと本ポスターの2種類を制作してもらいます。

執筆・写真:松村ひなた

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