REPORT

「東京芸術中学(第4期)」第4回 小田原のどかさん


小田原さんが手掛けた美術展で学ぶ
編集者・菅付雅信さんと13人のクリエイターによる『東京芸術中学』。6月1日は、彫刻家であり評論家の小田原のどかさんによる1回目の授業。今回はGAKUを飛び出し、小田原さんが作品展示を行った『記憶:リメンブランス―現代写真・映像の表現から』を開催中の美術館「東京都写真美術館」にて開講。小田原さんご自身にご紹介いただきながら美術展を鑑賞し、作品や美術展への理解を深めていきました。



「なぜ?」と問いかけることが原動力に
『記憶:リメンブランス―現代写真・映像の表現から』は小田原さんを含む7組8名のアーティストが参加した美術展です。人々の様々な「記憶」をテーマに、写真だけではなくAIや彫刻、映像など多様なアプローチを通して作品が展示されました。小田原さんから美術展の趣旨や作家・作品の背景、注目すべきポイントなどの説明を受けながら、生徒の皆さんは興味津々な表情で作品を鑑賞していました。

全ての展示を周り終え、小田原さんの展示作品に関してお話を伺います。「最近は、美術館とはどんな場所で、どんな仕組みなのかを考え、自分なりのテーマや問いかけを挟み込んでいくことが好き」と言う小田原さん。今回展示した作品は、「東京都写真美術館」の7000点以上ある所蔵作品から関心のある作品を選び、文章をつけるというもの。日本の写真技術の開祖と言われる上野彦馬の写真アルバムから7枚の写真を選定し展示しました。

上野の彫刻は第二次世界大戦中に失われ、戦後に再建されており、写真と彫刻の関係性を考える上で面白い事例です。一見無関係に見える二つの分野ですが、「『像』を考える上で、密接に関わる側面があるのではないか」と小田原さんは考えました。これをテーマに、「彫刻と写真はどう重なりあい、助けあってきたのか」という評論を書き、その用紙を持ち帰れるという仕掛けを施しました。あえて持ち運べないサイズで印刷されており、来場者は丸めたり畳んだり・・・。これを小田原さんは「彫刻とは何かを考えるうえで大切な作業」とし「美しい形を作ることだけが彫刻ではなく、人間の社会に身近な彫刻的行為はいくつもある」ことを考えさせます。

小田原さんは、作品を鑑賞する際に、作家だけでなく多くの人々の関わりを考えることの重要性を強調しています。作品の背後にはコミュニティや家族、サポーターなどの支えがあり、それを忘れてはならないと語ります。「作品を見る際にはその背景にある人々の存在を考えることで、新たな視点が得られる」と言い、作品や美術展との向き合い方を提案しました。



一つの方法に閉じない
展示作品のお話がひと段落つき、小田原さんの経歴を学生時代から今まで振り返りました。仙台で生まれ育ち、高校・大学と彫刻科に進学。「なぜ人間は彫刻を数千年に渡り作り続けているのか不思議だった」という小田原さんは、常に「なぜ」という部分に着目し、「求めている環境でなかったり、学びを深めにくいと感じたら学校を移り、複数の学校を点々とした」と語ります。

この数年で、小田原さんは評論家としても活動を始めましたが、そのきっかけは2019年に開催された「あいちトリエンナーレ」に参加したこと。この芸術祭で、世界で初めて出展作家のジェンダー平等が達成されました。「美術業界に蔓延るジェンダーバランスやハラスメント、労働条件の問題など多くの課題に声を上げなければ」と小田原さんは動き始め、映画やアート業界のメンバーと共にハラスメント撲滅運動『表現の現場調査団』を結成するなど、様々な活動に参加しています。

美術業界の息苦しさに苦悩するなかで、評論家と作家の間に「硬直した関係性」があると気が付いたとも語ります。「評価する側(評論家)」と「評価される側(作家)」の関係性は、「もっと流動的でもいいのではないか」「評論に納得いかなければ、そう言ってもいいのでは」と悩み、評論家の世界に足を踏み入れたそうです。「嫌なことは嫌だと言っていいし、嫌だと言っている人を尊重する世界にしたい」と語る小田原さん。若い世代の作家たちが生きやすい環境づくりを目指し活動されています。

2021年に最初の単著を、昨年には二作目の単著を出版し、さらに出版社『書肆九十九』も設立。「一つの方法だけと決めず、いろんなやり方を組み合わせるのがいいと思う」と自身の多様な活動を振り返りました。


課題は「キュレーションすること」
小田原さんから発表された課題は、「キュレーションをする」こと。テーマは、今回訪れた美術展と同様に「記憶」です。自分の作品でも、他人の作品でも良いので、3つ以上の作品を集め、それぞれの作品に対する説明文を書いてきてもらいます。「説明文は作り話でもいいんですよ」と小田原さん。本当の話と作り話を組み合わせるなど、物の見方を変えたり、新しい視点を加えられるようなキュレーションが期待されます。

「ものの見方を新しくするということは知恵を使うが、見せ方や説明に工夫を加えることで全く異なる意味を人に届けることができる。ぜひ頭を使って頑張ってほしい」と管付さんからもエールが送られました。

執筆・写真:松村ひなた

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