「限界美食論」作品一覧
「食」「ファッション」「建築」という領域において、10代がクリエイターや専門家と共にサステナブル社会を構想していった3つのクラス。その成果発表の機会として、有楽町を舞台に、2025年3月21日(金)から3日間、合同展示会を開催しました。
ここでは、食のクラス「限界美食論」生徒の皆さんの作品をご紹介します。
「限界美食論」について
人が食べるものは、すべてこの地球が生んだものです。畜産やそのための森林破壊による二酸化炭素やメタンの輩出、生物多様性の危機、わたしたちが地球を食べ尽くす前に、これからの時代を拓く「美食」について考えることが必要なのではないでしょうか。
食の悦びを、口の中の現象としてだけで捉えるのではなく、心が、地域や風土が、動物や植物が、地球や未来が悦ぶものへ。そのように、美食の定義を押し広げて、その限界へと拡張する創造性が求められています。このクラスでは、ミシュラン1つ星レストラン「nôl」が教室となり、これからの時代を担う若手シェフとともに、美食と美食が引き起こす地球への影響について学び、メニューを考え、調理し、実食し、地球にも人間にも美味しい一皿を考案しました。
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ホノオノニクパフェ
菊池祐輝、城代胡桃、田中陸渡 with 丹野貴士シェフ(nôl)
火は人類の発展に欠かせないものでした。人類が初めて行った料理も、火を使ったものでした。また、火を利用した重工業や蒸気機関車の発展によって、私たちの生活は大きく変わりました。現在では、マッチやライターといった道具が生活の必需品となり、私たちは火を自由に、当たり前のように扱うようになっています。火によって発展してきた人類の歴史は、まるで燃え広がる炎のようです。
人の心もまた、火のようなものかもしれません。一人の気持ちが他の人に伝わり、やがて多くの人の心を動かし、大きな感動となっていく。そんな様子は、まるで小さな炎が次第に大きく燃え広がっていくようにも感じられます。
しかし、火には良い面だけでなく、危険な一面もあります。振り返ってみると、火はこれまでに多くの人命や財産を奪い、人々の生活を壊してきました。最近でも、ロサンゼルスの山火事や、日本での地震による二次災害など、大規模な火災が頻発しています。技術が発達し、火を自由に使えるようになった今、私たちは本当にその責任を理解しているのでしょうか。
もし昔の人が今の私たちを見たら、「火に頼りすぎている」と怒るかもしれません。そして、もしかすると私たち自身も、過去の人々と同じ過ちを繰り返してしまうのではないか——。そう考えると、改めて火のありがたさや恐ろしさを意識し、それとどう向き合うべきかを考えることが大切だと感じました。
お好みで野菜チップスをトッピングできる肉パフェは、お肉のおいしさを楽しみつつ、食肉消費が環境に与える影響についても考えてもらいたいという思いから考案しました。
肉料理は多くの人に愛されていますが、過度な肉食は健康や環境にさまざまな問題を引き起こす可能性があります。食肉生産のための家畜飼育や飼料作物の栽培には広大な土地が必要であり、その過程で森林伐採や草地の開墾が行われます。これにより、生態系の破壊や生物多様性の喪失が進み、さらに森林の減少は二酸化炭素の吸収能力を低下させ、気候変動を加速させます。加えて、家畜が消化の過程で排出するメタンガスも温室効果ガスの一つとして影響を与えています。
また、食肉生産には大量の水(バーチャルウォーター)が必要です。例えば、牛肉1kgを生産するためには約15,000リットルの水が使われるとされています。これは、飼料作物の栽培や家畜の飲み水、飼育環境の維持などに使われる水の総量です。日本は多くの肉を輸入しているため、水資源が豊富であるにもかかわらず、大量の水を間接的に他国からも輸入していることになります。
こうした背景から、近年ジビエに注目が集まっています。ジビエは野生の動物を食材として活用することで、環境保全や生態系のバランス維持にも貢献します。適切な個体数の維持を通じて、里山の環境を守ることにもつながります。さらに、ジビエ肉は低脂肪・高タンパクで栄養価が高く、健康的な食材としても注目されています。そのため、この料理にはシカ肉とイノシシ肉を使用しました。
さらに、野菜チップスをトッピングできるようにしたのは、野菜本来のおいしさや、お肉に代わる主役になり得る可能性に気づいてもらいたいという思いからです。今後の食の選択肢として、野菜をより意識してもらうきっかけになれば嬉しいです。また、自由にトッピングできる仕掛けを取り入れることで、ただ食べるだけでなく、みんなで関わり合いながら楽しめるようにしました。
この料理を通して、新しい食材との出会いや、これからの食のあり方について考えるきっかけになれば嬉しいです。
和ノ環(わのわ)
倉元優乃介、宮沢雛美、吉田祐翔 with 堀中翔太(ホテル椿山荘東京)
近年の地球温暖化の影響で、日本の四季の移ろいが失われつつあります。私たちは、本来あるべき「春」の情景を感じてもらうために、展示会のある三月をイメージして制作しました。
見た目は控えめな色合いですが、伝統的な和の出汁にカカオという新たな要素を加え、「香り」を主役に据えています。食べた瞬間に広がる風味と、後味に残る薬味の余韻から、春の訪れを感じていただければ幸いです。
また、私たちは「失われゆくもの」にも目を向けました。今回使用する器には、レストランでは廃棄されがちな欠けた陶器を採用しています。流行や消費の波に流されるのではなく、古き良きものを大切にし、持続可能な未来へとつなげていく
——そのような想いを、この一皿に込めました。
昼 / 海と山のラビオリ、夜/星のムース
山本若菜、山﨑凪紗、れいんぼー with 中村維吹シェフ、二木彩香シェフ(8go)
[昼 / 海と山のラビオリ]
ラビオリをすくい、ひとくち。玄米のもっちりとした生地がほどけ、大地の香りをまとったしいたけ、たっぷりの陽を浴びたレモングラス、よもぎ、こぶみかんが、やわらかく混ざり合う。ラビオリの上には、野に咲く花。そのまわりには、藻類スピルリナの青が海のひかりを映す。
島を歩くと、壮大な自然とともに生きるひとびとの姿に、はっとさせられる。風の音に耳を澄ませ、森の匂いを感じ、海の満ち引きを知る。けれど、この景色がずっと続くとは、限らない。木々は切られ、海はよごされ、たくさんの生きものたちが姿を消している。
[夜/星のムース]
しずかに飴を叩くと、砕けた飴とともにオパリーヌが、きらきらと宙を舞う。スプーンをふかふかの玄米ムースに沈めると、リ・スフレやキャロブなど、さまざまな触感が口の中に広がる。ひんやりとしたチョコムースの中のスパイスが、のどやからだを、すこし暖かくする。
とおくの村で、星は、夜道を、雲を、しろく照らす。木々が揺れ、土の匂いがしずかに漂う。空一面に広がる星空に、同じく包まれているであろう遠くのだれかに想いを馳せる。けれど、この夜がずっと続くとは限らない。空は山火事や工場の煙に覆われ、星はかすみ、みえないものは、みえないまま忘れられていく
この一皿に、わたしが見た風景のかけらを残した。それが、まだここにあるうちに。
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「わたしたちのファッション表現」(ファッション)の作品一覧はこちら
「未来都市における循環のシンボル」(建築)の作品一覧はこちら
(執筆・松村ひなた)