「限界美食論」 第3回 コンセプトメイク(自分にとっての美味しさ)
自分と地球が接続された一皿をメッセージとして贈るということ
ミシュラン1つ星レストラン「nôl」のディレクターを務めるシェフ 野田達也さんをメイン講師に迎え、「地球に優しい」食との向き合い方を考えていく本授業。今回の授業では、最終発表に向けたレシピ開発や調理に先立ち、どんな一皿を生み出したいかを考えていきます。自分が食べたいものは必ずしも地球には優しくない。そんなジレンマと向き合い悩みながら、自分が作る一皿を食べた人にどんなメッセージを贈りたいかということを熟考していきました。
美味しさを自分ごと化する
まずは、原点に立ち戻り「自分にとっての『美味しい』とはなにか?」を考えていきました。これまでに「すごく美味しい!」と感じた料理はどのようなものだったのか。誰が作り、どのような場所で、誰と共に食したのか。その料理を口にした時、どんな気分になったのか。ワークシートに各々で記入していきます。自分の記憶に根付く「美味しさ」をたどることで、一皿に込められたメッセージ性を認識していきました。
記入後は、グループ内でそれぞれの「記憶に残る料理」を発表。三重県の燻小屋で食べた、削りたてのかつお節と白米。ずっと憧れていた料理人が作ったジェラート。初めての1人旅で訪れた屋久島の旅館で食べたカメノテ貝。島根県でホストファミリーがBBQで食べさせてくれた猪肉。おばあちゃんが作ってくれた鯛の昆布締め。その料理や背景となるストーリーは様々です。
さらに、その料理が成り立つまでに、どのような環境・社会課題に直面している可能性があるのか、思いをめぐらすことで、美味しさや食べる悦びと地球環境は必ずしも一致しないという事実と向き合いました。どんな変化を加えることで、地球に優しくなるのか懸命に考える皆さん。最終発表に向けたヒントを得た生徒たちもいたようです。
さらに今回の授業では、豆腐を試食。シンプルに少しの塩とオリーブオイルのみでいただきます。「大豆の味が濃い!」「いつもの豆腐と全然違う!」と驚く皆さん。素材や製法にこだわり丁寧に作られた食材と触れる機会となりました。
地球にも自分にも優しくて美味しい一皿を生み出す
ここからは、最終発表となる「未来を切り拓く一皿」を考案していきます。これまでに試食を通して体験した「nôl」の料理や、記憶に残る料理、そして食にまつわる環境問題などを考慮しながら、どんな一皿を作りたいか考えていきます。どんな食材を使うのか。デザートなのか、メインなのか。和食か洋食か。どんな風に調理したいか。ビジュアルはどうするのか。これまであまり料理に触れる機会がなかった皆さんを、「nôl」の丹野シェフと「ALTER EGO」の伊吹シェフがサポートしてくれます。
考え方は多様で、「かっこよく燃える料理にしたい」「美しすぎて食べられないような料理にしたい」とビジュアルから考えたり、「私のようにお肉が好きな人たちが罪悪感なく食べれる料理にしたい」と自身の食生活やそれに紐付く環境問題から考えたり、もしくは「味噌」「かつお節」など食材から考えてみたり。生徒たちのアイデアを美味しい一皿に仕上げていくため、調理法や食材の組み合わせなど、料理人の視点でサポートシェフのお二人がアドバイスをくださいました。なぜその食材を使うのか、その一皿は誰に食べてもらいたいのか、食べた時どんな気持ちになってほしいか、どんな環境問題と関連しているのか、など、一つ一つのメニュー開発に向け考えることは山積みです。苦戦しながらも、グループの皆やシェフたちと対話を重ねながら改良を進める皆さん。次回の授業では、コンセプトやアイデアだけではなく、実際にレシピに落とし込んでいきます。
執筆・写真:松村ひなた