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「限界美食論」第2回 地球にとっても自分にとっても美味しい食とは


食べることと地球環境の関係性
ミシュラン1つ星レストラン「nôl」のディレクターを務めるシェフ 野田達也さんをメイン講師に迎え、「地球に優しい」食との向き合い方を考えていく本授業。第2回目の授業では、実際にコンセプトメイキングに入る前に、地球環境や健康に食が与える影響を学ぶため、「FOOD LOSS BANK」の創設者であり代表取締役の山田早輝子さんをゲスト講師に迎えました。



食にまつわる膨大な環境課題を前にして
1キロの牛肉を生産するためには、25キロの水を使用し、さらに餌となる大豆を育てるために広大な土地が必要。さらに、大気汚染や土壌汚染、健康被害など動物性の食事を私たちがとるために、様々な課題が生まれています。驚愕の事実に肩を落としてしまった生徒の皆さんに、山田さんは「極端な行動を取れということではなくて、動物性の食事をとる量を半分に減らしてみたり、3日に1度にしてみたり。それだけで環境負荷は減らせるんですよ」と声をかけます。さらに、「多くの人が自分たちに関係ないと思っていることが、実は全て繋がっている。それに気付いて広い目で社会を見つめなければ、自分たちの食関係が危うくなってくるでしょう。自分ごと化して考えてほしい」と続け、危機感を募らせます。

日本ガストロノミー学会の代表や、世界ベストレストラン50公式大使も務め、美食に精通している山田さん。ニューヨークやロンドンのミシュラン3つ星レストランが、突然ヴィーガン料理に転向した事例も紹介。これに対し野田さんは、「皆、星が落ちると思ったが落ちることはなかった。大事なことは、今あるものを否定せず理解すること。その上で、自分はどのように寄り添えるのか検討していくことが料理人だけでなく、クリエイターには不可欠。問題提起を常にしておくことが大切」と語ります。さらに山田さんは、これからのガストロミーの在り方に関して「地元のものをどう美味しく使うか。自分の身の周りにある美味しい食材を使うことで、カーボンフットプリントを出さずに美食を提供できる。料理はプレートの中身だけではなくて、そこにくるまでのストーリーが大切。これを伝えられるシェフが増えてほしい」と語りました。



美食を再定義する
この日は、「nôl」で実際に提供されている海藻とタコを使った一皿を試食しました。綺麗な紫色をした海藻は、磯焼けにより減少しつつある海藻を採取して研究し、環境負荷の少ない陸上栽培と海面栽培によって蘇らせている「合同会社シーベジタブル」のもので、しっかりした歯応えがポイントです。その上に、薄切りにして炙ったタコが添えられます。「牛肉を食べているみたい!」と驚きを隠せない生徒の皆さん。「これまで味わったことがないような感覚」と、初めて体験するガストロノミーの味に困惑しつつ、興味津々な生徒も。野田さんは、美味しさの定義を更新されているように思いますが、それこそが、このクラスで求められる挑戦でもあります。

試食後は、山田さんが設立した「FOOD LOSS BANK」の活動について伺いました。ジュエリーブランド「ブルガリ」やファッションブランド「グッチ」、様々なホテルやレストランとのコラボレーション事例を紹介。世界のラグジュアリーブランドが、本気でサステナビリティに取り組んでいる様子は、生徒の皆さんの未来観を少し豊かにしてくれるようでもありました。

次回の授業からは、最終回での発表に向け、実際に調理する一皿のコンセプトを考え始めます。これまでの2回の授業で得た学びが、どのように皆さんのクリエーションに反映されていくのでしょうか。

執筆・写真:松村ひなた

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