「限界美食論」第1回 地球を傷つけない美味しさ
地球にとっても自分にとっても美味しい食とは
馬喰横山のミシュラン1つ星レストラン「nôl」。この授業では「nôl」が教室となり、ディレクターを務めるシェフ 野田達也さんをメイン講師に迎え、「地球に優しい」食との向き合い方を考えていきます。最終回では、生徒の皆さんが各々で考案した「地球にやさしい一皿」を発表していきます。
恩返しのかたちとして、料理人に
「未来のあるべき姿」を想像していくためには、まず「今がどのようなものか」を捉えていくことが必要です。この授業では、同じくサステナビリティを一つの主題に扱うクラス「限界美食論」「未来都市における循環のシンボル」との合同授業としてガイダンスを予め開講。GAKU事務局と受講生、それぞれがリサーチを行い、現在の地球環境のあり方を見つめていきながら、創作に向かう準備をしていきました。
初回となる今回の授業は、野田さんの自己紹介からスタート。「やんちゃすぎて、親に心配をかけまくっていた」という中高時代を経て、半導体エンジニアとして就職。順調に働いていたものの、数年が経過し「自分はここで何をしているのか?」とモヤモヤしてしまい、熱中できるものを見つけたいと思うようになったそうです。「明日死ぬとしたらどうする?それが1週間、1年と伸びたらどうする?」と生徒たちに問いかける野田さん。「僕は特に特技もなかったし、迷惑をかけてきた周りの人たちに恩返しをしたいなと思うようになった。そこで母に、どんなことをしたら喜んでくれるか聞いてみると、『ご飯を作ってくれたらそれだけで嬉しい』って言ったんですよ。だから、それを真に受けて料理人になることにしました」と、料理人の道を進むことになったきっかけを語りました。
調理師学校を卒業した後は、都内フレンチレストランに就職し、その時にたまたま読んでいた本を通じてフランス料理に憧れを抱き、即渡仏を決意。日本人最年少で二つ星を獲得したミシュラン二つ星「Passage 53」の佐藤伸一氏のもとで修行し、帰国。その後は、食品製造からバルまで食にまつわる様々な見識を広げるなか、ケータリング事業に携わりました。その時のことを、「香り、照明、デコレーションなど色んな分野のプロフェッショナルと作り上げた世界観に衝撃を受けた。その充実感が忘れられない」と振り返ります。その後、再度渡仏し、新型コロナウイルスの流行をきっかけに帰国。「このタイミングで、自分がなぜ料理をやってきたのか考え直し、人を喜ばせるためだという原点に立ち戻った」という野田さん。この後に、GAKUのファウンダーでもある「LOGS」の武田さんとの出会いをきっかけに「nôl」が誕生します。
無駄を出さない美食は可能か
「調和と循環」がテーマのもと、「nôl」では通常捨てられてしまう食材や部位を活用した料理を提供しており、ひとつひとつの食材がどこから来ていてどんな風に製造されたか、こだわりを持っています。休憩時間中には、キッチンの中や裏側を見学させてもらい、コンポストの匂いを嗅いでみたり、夜のコースメニューのために仕込み中だったドングリの実を試食したりしました。さらに、みる貝と蕪を使用した一皿と、野菜の端切れや根っこから出汁をとった「ゴミのスープ」も味わうことが叶います。生徒の皆さんは、ひと口一口を噛み締めながら、味の印象や感想を話し合っていました。
話を伺いながら実食を重ねて、身体を通して学ぶような濃厚なひとときとなった、第1回目の授業。野田さんからの「どんなに失敗しても、自分だけは自分のクリエーションを疑ってはだめ」というメッセージが、生徒の皆さんの心に刻まれたようでした。
執筆・写真:松村ひなた