REPORT

「dialogue editing」第1回 イントロダクション


街や人との関わり合いの中で本をつくる

「dialogue editing」は、都市を舞台とした編集のクラス。中野の街を舞台に、街や人と関わり合いながら、それぞれに感じ・考え・生み出したものを一冊の本という形にまとめ上げていきます。

11月30日の初回授業では、それぞれの興味関心や活動へ臨む想いを分かち合いながら、今後の活動に向けた足場を作っていくような時間になりました。授業の舞台となったのは、東中野の独立書店・オルタナティブスペース「platform3」。一冊一冊選書された国内外の書籍に囲まれながら、街でインディペンデントに運営されるスペースのあり方も体感されていくようでした。


キーワードは、「対話(dialogue)」

「対話(dialogue)」を活動のキーワードに置いているこのクラス。街を舞台に、自分と・他者と・都市との間で生まれる対話を豊かに育んでいくことを「編集」という営みの一つのあり方として捉え、およそ半年間にわたる本作りを通して実践していきます。講師として活動を並走するのは、GAKUの運営に携わりながら本の編集や執筆活動も行うGAKU事務局長の熊井晃史さんと事務局スタッフである私(佐藤海)、都市を舞台に本作りやイベントのキュレーションを行う編集者の阿久根聡子さん、GAKUクラス「グラフィックデザインのパトス」の講師も務めるデザイナーの前原翔一さんの4名。

「自分が生きることと、何かを生み出すことを接続させたい。というか、本来はそうあるべきなんじゃないかと常日頃考えています。それに、実はみんな日常生活の中で既に編集的なことをやってるように思えます。だから、授業を通して『できないことを獲得する』ということではなくて、それぞれが既に常にやっていることに可能性の種を見出し、本作りに向かうということを皆さんと一緒に実践してみたいと思っています」と、今回の取り組みの発起人でもある熊井さんは、このクラスのテーマを解説します。そのような想いから初回授業では、講師陣も含め一緒に創作を進めるメンバー同士で「じっくりと対話を深めていく」ことで、半年間にわたる活動のイントロダクションとしていきました。

「知ることは、好きになること。それを人に伝えたり形にしたりすることはとても素敵だと思い、編集に興味を持った」「『対話』に興味がある。いろんな考えを持った人と関わって、一緒に何かをやってみたい」「中野の街で出会った人に優しくしてもらって、救われた経験がある。街を舞台に創作することが、何か恩返しになるんじゃないかと思った」と、生徒の皆さん。一人ひとり、授業に向けた想いやエピソードが語られ、その言葉にみんなでじっくりと耳を傾けていきます。「生きることの延長線上にある創作や編集」ということを踏まえると、それぞれがこれまで経験してきたことや、そもそもこのクラスへの受講を決めてこの場に集まった、というところから、既に本作りが始まっているように感じられていきます。熊井さんは、そんな一人ひとりの言葉を受け止めながら、「わかりやすく伝えようと思いすぎなくて大丈夫。それよりも、好き!という気持ちを大切にすることのほうが価値がある。分かってもらいたいけど、そう簡単に分かられても困る。そういう気持ちを大切にしたい」と言います。


生きることと創ることが重なるということ

生きることの延長線上に編集や創作があるとは、つまりどのようなことか。それが体現されている例の一つとして、講師の一人である阿久根聡子さんの創作物が紹介されます。

例えば、「都市は私たちのダンスフロア」と題された本のシリーズは、阿久根さん自身が街で遊んで、そこで出会った人や場所との関わり合いの中で作られた、ポケットサイズの「夜遊びのガイドブック」。「私は、夜の街で遊ぶのがすごく好きで、そこでたくさんの友達や仲間ができたし、色々な文化を知った。でも日本では、『夜遊び』というだけであまり良い印象を持たれなくて、まちづくりの議論のテーブルには乗らない。見えないものにされていることに、ずっと違和感があった」と、阿久根さんはその背景を語ります。一方で、「好きな場所に行って好きな人に出会って本を作る。本を作ることで、また新たな出会いも生まれる。ただただ、楽しんでいるうちにそうなった。かっこよくやろうとか、うまく書こうという気持ちはあまりなくて、単純に好きだからやってる」と、自分の興味関心に向かっていく道程の中に自然と本づくりの営みがあるということを強調されている様子も印象的でした。

それらの創作物を踏まえつつ、熊井さんは、個々の創作のキーワードとなる言葉を見出していくことの重要性に触れていきます。「阿久根さんは『都市は私たちのダンスフロア』という言葉が本のタイトルに留まらず、そのほかのご自身の様々な活動の指針や、人と関わり合うための接点になっている。そういった自分自身のキーワードになるような言葉を、今回の授業を通した本作りでも皆さんそれぞれに見つけてもらいたいと思っています。お守りとして自分のポケットにしまっておけるような、それぞれにとって大切な言葉。それを、創作の手がかりにしていってほしい」と、熊井さん。またその「キーワード」の例として、阿久根さんが日本語版の翻訳・出版を担ったイギリス人ジャーナリストのエマ・ウォーレンさんによる本「Document Your Culture」や、熊井さん自身がイベント全体のプロデューサー及び冊子の編集・執筆を手がけた「渋谷キャスト7周年祭」特別編集誌「頼まれなくたってやっちゃうことを祝う」などが紹介されました。

活動や創作に向けて、それぞれのお守りとなるような言葉を探っていくこと。一方で、まだうまく言い切れないことや一言で表せないようなものにこそ、それを見出していく鍵があると捉え、このクラスでは活動のプロセスの中で「対話」を重要視しています。本のデザインを担ってくれる前原さんからは、「デザインにおいて自分が大切にしてるのは、まず一回いろんな人やコトを愛してみること。それをすると、自分にしか分からない何かが見えてくる。簡単に分かっちゃうものは面白くない。なんか分からないけどグッとくる、ということ。それをつまみ上げるのがデザインというものだと僕は捉えています。だからみんなも、よく分からなかったり説明できなかったりしても、本当に自分の心が動いたものを持ってきてもらえたら嬉しい。遠慮はしなくて大丈夫。受け止めます!」と、今後の活動に向けた力強いエールの言葉が贈られ、授業が締めくくられました。


次回は、「写るんです」を携えて中野の街を歩く

次回は、中野の街でのフィールドワークを実施。グループに分かれて街でランチをしたり、それぞれの心が動いた風景を「写るんです」で撮影したり、街で自由に時間を過ごしながら、創作に向けたインスピレーションを掴んでいきます。

写真・執筆:佐藤海

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