「歓待としてのキュレーション」第1回&第2回 キュレーターを再定義する
「歓待としてのキュレーション」に向かっていくために
「歓待としてのキュレーション」は、インディペンデント・キュレーターの池田佳穂さんによるキュレーションをテーマとしたクラス。渋谷の街を舞台に全10回の授業を通して、生徒全員で企画展を作り上げていきます。
11月10日は初回授業。生徒の皆さんそれぞれの興味関心やこのクラスへ臨む姿勢を分かち合いつつ、池田さんのこれまでの活動や実践について伺いながら、今後の活動に向けた足場を作っていくような時間になりました。
誰かの言葉にじっくり耳を傾ける、という歓待の場
まずは、半年間共に活動していくメンバー同士の顔合わせ。池田さんと、このクラスの発起人でもあるGAKU事務局長の熊井が聞き手になり、対話を重ねるような形で、生徒の皆さんやスタッフ一人ひとりがこのクラスに対する想いや展望を分かち合います。「街を舞台に展覧会をつくる、ということにワクワクした」「クラスのステートメントに書いてあった『偶発性を織り込む』という言葉にピンときた」「キュレーションという言葉の意味はまだよくわからないけど、わからないから、飛び込んでみようと思った」「『オーガニックなキュレーション』とあったのが気になって」と、それぞれの素直な気持ちを言葉にしていく生徒の皆さん。
それに受け止めるように、池田さんと熊井からは、「なんとなく、とか、うまく言葉にできないことも大切。上手に言葉に出来すぎているときは、一旦立ち止まった方が良いかもしれないくらいです」「わからないこと、わかり合えないことはネガティブなことではなくて、むしろ可能性であるはず」といった言葉も贈られます。さらに、このプロジェクトの共催である東急株式会社の皆さんからは、「東南アジアに長く住んでいたので、この活動を通じてそういったカルチャーに改めて触れられることも楽しみ」「東急に入社する前には、障害を持つ子どもたちのための幼稚園で園長をやっていて、そこでアーティストの存在にとても助けられていた」「私は渋谷生まれで、この街は本来、それぞれの想いを持ち寄れるような場所だと信じているから、渋谷を舞台にこの活動ができることそのものが嬉しいこと」といったコメントも。まずは一人の人間として、その場に居られるからこそ生まれるような会話がとても印象的です。そして、そんな言葉の交わし合いに皆でじっくりと耳を傾けるという、この状況そのものが、一つの「歓待」の場のあり方を体感する機会にもなっていきます。
領域横断的なキュレーター像
およそ3時間(!)にわたる顔合わせとしての対話の時間を経て、後半は池田さんによるレクチャー。これまでの活動や実践とともに、ご自身のキュレーター観が語られます。
その中で一つキーワードとして挙げられたのは、「社会と接続したキュレーション」と、それを実現していくために「領域横断的なキュレーター」であること。そういったご自身の姿勢の基盤にあるのは、インドネシアを中心とした、東南アジアのキュレーションカルチャーに触れた経験だと言います。「日本のキュレーションは西洋の博物館学、つまり『ものをセレクトする』ことがベースにありますが、東南アジアでは、DIYではなく『DIWO(Do it with others)』と言われるほど、人の繋がりや関係性が重視されています。その根底にあるのは『交流することが可能性を広げる』という考え方です」と、池田さん。
どういうふうに人が集まるか、過ごすか、ということに想像力を働かせること。それはつまりどういうことか。森美術館「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」やBUG「バグスクール:うごかしてみる!」、山中suplex「一人で行くか早く辿り着くか遠くを目指すかみんな全滅するか」等、ご自身がキュレーションを務めた展覧会やイベントを例に挙げながら、その背景や実際的な活動が紹介されます。インドネシアでの実践から池田さんが学び大切にされている、「セレクションではなくネットワーク」「Art Exhibition As A Social Playground」というフレーズが、様々な活動を通して具現化されているようにも思います。また、現地の言語である「ノンクロン(無目的にダラダラ過ごす)」「マジェリス(時間を厭わずに話し合う)」というキーワードも非常に印象的です。そしてそこでは、「私は偶発性やハプニングを織り込んでいくようなキュレーションを大切にしていますが、そのためには、『それが起こるためのしつらえ』をあらかじめ設計しておく必要があります」と、場所の申請などの下調整であったり、アーティストと健康的な協働関係を築くことの重要性であったりと、活動の裏側にあるリアリティも明かされます。
また、ご自身が「店長」となり、国内外のアーティストや様々な人と共同で色々な場所でお店を開く「池田BAR」を例に挙げながら、「初めはキュレーションとは関係なくやっていたものですが、続けていくうちにリサーチやネットワーキングの手段として発展していきました。初めての海外でのキュレーションも、インドネシアでの『出張池田BAR』でした」と、人の繋がりや関係性を育むことそのものがキュレーションになっていく可能性についても触れられます。キュレーションという営みの、捉えきれないような幅の広さと奥深さを見つめながら、でもだからこそ、キュレーターという存在が「領域横断的」であることの大切さが感じられていきます。
渋谷の街における「芸術の現場」を目撃する
次回の授業では「渋谷の現場を訪問する」というテーマのもと、生徒全員で作り上げていく展覧会の舞台となる、渋谷の街でのフィールドワークを実施します。ゲストは、Chim↑Pom from Smappa!Groupメンバーの林靖高さん。渋谷の街を創作や作品発表の舞台にもしているChim↑Pom from Smappa!Groupの活動に触れつつ、実際に林さんとともにその現場となった場所を巡ることで、展覧会を企画する上での動機や手がかりを掴んでいきます。
執筆:佐藤海
写真:吉田陽馬