REPORT

「新しい演劇のつくり方(第3期)」第2回 戯曲①


戯曲づくりの起点を探る
GAKUによる演劇のクラス「新しい演劇のつくり方」。3期目となる今期は、昨年度に続いて本クラスの総合ディレクターを務める岡田利規さん(演劇作家、小説家で演劇カンパニー「チェルフィッチュ」主宰)による『スーパープレミアムソフトWバニラリッチ』を原作に、中高生である生徒全員が新たな物語の戯曲を書き、演出し、演じ、発表していきます。

7月28日(日)の第2回授業の講師は、劇作家で演出家の西尾佳織さん。生徒の皆さんそれぞれが原作を通して感じたことをもとに、これからの戯曲づくりの手がかりとなる要素を探っていきました。


他者と共に創作するということ
今回から講師を務める西尾さんは、2007年に劇団「鳥公園」を結成。以降、全作品の脚本・演出を担当されていましたが、2020年からは外部アーティストに演出を委ねるなど、様々な形で演劇づくりに取り組まれています。現在は今一度演出も手がけつつ、「社会の中で人と人のあいだに引かれる境界線を、さまざまな形で問い直す作品」をつくられています。

全員で戯曲を書き、演出し、演じ、発表していくこのクラス。「自分だけで考えて飲み込むのではなく、みんなに恐れず伝える。意見が違うことを認める。そういう信頼関係を皆さんと築いていきたい」と西尾さんが言うように、演劇という集団創作ならではの場のあり方が話題になります。関わるみんなで目線を合わせていくための時間がとても大切にされていることが印象的です。






つくる前に、よく観て話す
戯曲の原作となる『スーパープレミアムソフトWバニラリッチ』の舞台はコンビニ。「バイト店員、店長、客、本部スーパーバイザー、そして、数千種類の商品たちが、全編に流れるバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻にあわせて現代人の価値観の移り変わりや、鬱屈、押し寄せる分断の時代を描き出す」というものです。生徒の皆さんは事前に作品を映像で視聴し、戯曲も読み込んだのち、今回の授業に臨んでいます。まずは、それぞれが作品から感じた印象を短い時間でスケッチで表現してみます。

様々な形や色のスケッチが並ぶ中、共通する要素を描いた人たちでグループをつくり、お互いのスケッチを眺めることからはじめ、原作の感想を語り合っていきます。「夢みたいにふわふわしていて、だけど人間らしい喋り方だと思ったんだよね」「いつも行くコンビニは明るいけど、舞台のコンビニは暗かったのが不気味だった」「『所詮はバイト』という気持ちに共感できる」などなど。描かれた要素は同じでも、そこにある様々な印象や解釈が交わされます。



「書かずにはいられないこと」を探る
物語が生まれる舞台としてのコンビニ。原作では、戯曲における舞台設定の重要性が感じられますが、一方で、原作者の岡田さんや西尾さんは、コンビニにこだわらなくて良いというアドバイスを贈ってくれていました。「みなさんにとっての必然性がある舞台設定を考えるとしたらどこでしょう」と、西尾さんが投げかけると、駅、学校、美術館、遊園地など様々な場所が挙げられます。どれも異なる目的を持つ、見知らぬ人たちが集う場所。生徒のみなさんの創作意欲を刺激する要素が感じられました。

自分の中にあるものを、ビジュアルで表現したり、言葉で話したり、文字にして書いたり。授業の最後には、大きな模造紙を広げて、今日の授業の感想や、思い浮かんだアイディアを全員で書いていきました。

「皆さん一人ひとりがどんなことを書きたいのか。どんなことを書かずにはいられないのか。それが一番大事。次回からはそれも探っていきたいと思います」。戯曲づくりの核となる要素を探っていく次回授業の指針も西尾さんから示され、戯曲の執筆は進んでいきます。

執筆・写真:杉田聖司

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