REPORT

「創造的鑑賞入門」第5回 ものが生まれる場所のリアリティ


創作の現場を訪れる

「創造的鑑賞入門」は、慶應義塾大学アートセンター・キュレーターの渡部葉子さんによる「鑑賞」をテーマとしたクラス。全6回の授業を通して、鑑賞という営みを捉え直しながら「創造的鑑賞」を体感していきます。

制作プロセスの中にある「鑑賞」のあり方を、アート作品の制作からキュレーションまでを実践することで捉えていった前回の授業。9月1日(日)に開講された第5回のテーマは、「ものが生まれる場所のリアリティ」。舞台は茨城県取手市にある関東最大のシェアスタジオ「STUDIO航大」です。実際に所属するアーティストの方々にもお話を伺いながら、創作の現場を体感していきました。

 













その場に身を置くことを通して感じられるもの

今年でオープン12年目を迎える「STUDIO航大」。そこでは、平面や立体、工芸、インスタレーションなど多種多様なメディアを扱うおよそ25名のアーティストが集い、スタジオの管理・運営もアーティスト自身が担っています。今回は、スタジオの代表を務める増田将大さんとともに、小津航さん、佐宗乃梨子さん、表良樹さんの計4名の所属アーティストの方々にご案内をいただき、それぞれの制作スペースを巡りながら見学を進めていきました。

一口に「アトリエスペース」と言っても、その空間のあり方はアーティストや扱うメディアによって本当に様々。言葉で表すと当たり前のようですが、実際にその現場を前にすると、匂いや空気感といった目に見えない要素からもそれが感じられます。材料や制作道具とともに床や壁や机の上など、至るところに作品が置かれている空間に圧倒されつつも、興味深々な生徒の皆さん。「この道具はどうやって使うんですか?」「どのくらいの時間、制作に取り組んでいるんですか?」「この作品はどの部分から作り始めたんですか?」などなど、アーティストの方々への質問も止まりません。会話を重ねていくなかでは、「そもそもなぜ人は彫刻を作るんだろう」と創作の根源的なあり方に想いを馳せるような場面も。そういった時間を通して、作品を取り巻く環境や背景そのものを「鑑賞」していくような体験が生まれていきます。

 


アーティストと同じ時代に生きていることのリアリティ

「ものを作り上げる」ということの中にある凄みや熱量とともに、作り手自身の人となりや生活の断片のような部分も垣間見えるような、まさに創作におけるリアリティを体感していく機会となった今回。見学後には、それらの体験を通したそれぞれの心象を分かち合います。「とにかく空間に圧倒された。アート作品を鑑賞することは好きだけど、これまで作品が作られる状況や環境に意識を向けたことはなかったので新鮮だった」「アーティストはどこか遠い存在だと感じていたけど、今回の見学を通して作品は人の手で作られているんだということを改めて実感して、アートと自分の距離が少し近づいた気がする」「自分も学校に通いながら作品制作をしていて、アーティストとして活動をしている人はどのように制作や生活に取り組んでいるのだろうと気になっていた。色々とお話を聞けて嬉しかったし、本当に勉強になった」と、生徒の皆さん。

見学を並走してくれた渡部さんからは、「アーティストと同じ時代に生きていて、リアルタイムで本人から話を聞ける機会があることが、現代美術の面白いところの一つだと思う。そしてキュレーターという仕事においても、醍醐味だと感じる部分です。今日はそれを、みんなにも体感してもらえたんじゃないかと思います。私自身も純粋に楽しく、とても学びの多い時間でした」と、ご自身の職業観も伺えるようなコメントも贈られ、授業が締めくくられました。

 


次回は、これまでの活動を振り返る「リフレクショントーク」

「鑑賞」という営みの創造性を捉えていくことをテーマに掲げ、実践を重ねていったこれまでの5回の授業。次回の授業最終回では、このクラスの講師の方々3名をお招きし、これまでの活動を振り返りつつ、「創造的鑑賞」というテーマを改めて見つめていく「リフレクショントーク」を行います。一般公開のイベントとして開いていくことで、活動の中での学びや発見を、より多くの人と分かち合う機会にもしていきたいと思います。

執筆:佐藤海
写真:松村ひなた

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