REPORT

「創造的鑑賞入門」第4回 鑑賞をつくる


鑑賞体験をつくるということ
「創造的鑑賞入門」は、慶應義塾大学アートセンター・キュレーターの渡部葉子さんによる「鑑賞」をテーマとしたクラス。全6回の授業を通して、鑑賞という営みを捉え直しながら「創造的鑑賞」を体感していきます。

制作プロセスの中にある「鑑賞」のあり方を見つめ、実際に制作に取り組むことを通して体感していった前回。8月17日(土)の第4回も引き続き、アーティストの卯城竜太さんによる授業です。今回のテーマは、「鑑賞をつくる」。作品鑑賞のあるべき姿を思考し、その状況を作り出す「キュレーション」という営みに着目していきます。さらに、前回の授業で生徒の皆さんそれぞれが作り上げたアート作品を題材に、「鑑賞をつくる」ことにも挑戦していきます。

 


いかに、個が輝ける場をつくることができるか
「アート作品において、つくることと見せることは同じくらい大切なこと。作品の見せ方によって意味が変わってしまう」と、卯城さん。ご自身もアーティストでありつつ、「Chim↑Pom from Smappa!Group(以降「Chim↑Pom」)」や様々なアーティストの展覧会のキュレーションも担われています。今回の授業では、実際にChim↑Pomの作品や卯城さんがキュレーションに携わった展覧会を紹介いただきながら、作品鑑賞の場を作り上げるプロセスやその中での着眼に触れていきました。

例えば、Chim↑Pomによる「Level.7 feat 明日の神話」。渋谷駅にある、日本の被曝のクロニクルを描いた岡本太郎の壁画「明日の神話」に福島第一原発事故の様子を描いた絵をゲリラで設置した同作品。設置風景の動画が匿名で拡散され、当時「世界的なアーティストの作品に若者がいたずらをした」として、ネット上で様々な議論が起こったと言います。その後展覧会を通して作品として正式に発表すると、議論はその行為や作品に留まらず、アートの存在意義や可能性といった本質的な部分にまで及んでいきました。かたや「若者のいたずら」、かたや「アートの存在を問う現代美術作品」。作品が展開される場や状況によって、捉えられ方が大きく異なっていくことがわかります。

そのほかにも、身体パフォーマンスを中心とした作品発表の場として2週間限定で開かれたレストラン「にんげんレストラン」。外光のみを灯りとして使用し24時間いつでも作品鑑賞を可能にすることで、訪れるたびに作品の見え方や鑑賞体験が変化してしまうような展示空間を実現した、アーティスト・磯崎隼士による展覧会「今生」など。挙げられる例はどれも、「展覧会」と聞いてパッと想像できるような空間やしつらえではありません。「作品が持っている本質的な性質は何かを見出すこと。それを軸に作品の見せ方を考えるから、空間のあり方も作品の置き方も照明も鑑賞の時間帯も、全て1から考えなければいけない。『いかに、個が輝ける場をつくることができるか』を実験することが、自分にとってのキュレーションです」という卯城さんの言葉は、そんな多種多様な場のあり方を裏付けるようでした。

 


いかに、作品がそこにあることの意味を見出せるか
様々なキュレーションのあり方を捉えていった後には、実際に生徒の皆さんそれぞれが「鑑賞をつくる」ことに挑戦していきます。題材になったのは、前回の授業で「簡単につくる」というルールのもと作り上げられた生徒自身による作品。作品を作った本人である「アーティスト役」、アーティストに並走する「キュレーター役」がタッグを組み、二人一組のチームになって作品のキュレーションプランを検討していきます。実践にあたり卯城さんからは、「良い鑑賞体験とは作品を見た瞬間のみに完結せず、鑑賞者が日常の中で思い出すようなものにすること」「作品が活かされているかということももちろん大切だけど、それ以上に『いかに作品がそこにあることの意味を見出せるか』ということだと思います」といったアドバイスが贈られました。

実践の後には、チームごとにプランを発表。そこに至るまでの作品への読み込みや議論も明かされつつ、二人の考える、作品のより良い鑑賞体験のあり方が語られます。例えば、「見てほしいというより『見つけてほしい』」と、公園や道端といった暮らしの場所に突如現れるようなプランを考えたチーム。例えば、「ただ読むのではなく、自分に宛てられているという意識で読んでほしい」と、テキストベースの作品を手紙で送るというプランを考えたチーム。中には、「自分の体験を伝えたり見せたりするのではなく、鑑賞者にも同じように時間を過ごしてもらいたい」と、場と時間だけを設定し、鑑賞者に「自由に過ごしてもらう」という、作品の姿形を全く必要としないようなプランも。

生徒の皆さんのアイデアに対して卯城さんからは、「鑑賞者をどうやって集める?」「どういう導線で作品を見てもらう?」「もしも、全ての作品とプランが集まったグループ展があったとしたら、、」と、コメントとともに様々な質問も贈られ、さらに想像が広がっていきます。また作品の見せ方を検討することを通して、自ずと作品への解釈やコンセプトが深まっていく様子もとても印象的でした。

 


創造することは、実は鑑賞的な営みである
前回と今回の授業を合わせたおよそ1時間半の中で、アート作品の制作からキュレーションまでを体験していった生徒の皆さん。最後には卯城さんからこんなコメントが贈られ、全2回にわたる授業が締めくくられました。「この限られた時間で皆さんがつくった作品やキュレーションプランは、鑑賞する人の日常や人生に影響を与えうるものになっていると思います。鑑賞というものは実は創造的な営みであり、創造すること自体が鑑賞的な営みでもある。自分もアーティストでありキュレーターであり、一人の鑑賞者。皆さんも良い鑑賞者になっていきながら、創造行為を続けていってほしいなと思います」

 


次回は、「作品が生まれる場所」を訪問する
次回の第5回のテーマは、「ものが生まれる場所のリアリティ」。およそ25名のアーティストが集う関東最大のシェアスタジオ「STUDIO航大」を訪問し、実際に所属するアーティストの方々との交流も交えながら、創作の現場を体感していきます。

執筆:佐藤海
写真:松村ひなた

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