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「Directed Games(原題: Jogos Dirigidos)」 上映会を開催します

はじめに

永井佳子氏による小冊子「Materia Prima」。その第2号では、ブラジル人アーティストのジョナタス・デ・アンドラーデ氏の映像作品「Directed Games(原題: Jogos Dirigidos)」が取り上げられている。映像の舞台となるのはブラジルの小さな村、ヴァルゼア・ケイマーダ。聴覚障害のある人々が多く住んでいるというこの地域には、公式の手話を学ぶ学校がない。だからこそ「長年にわたる自発的なコミュニケーションの結果として独自の言葉が作られていった」のだ。そしてこの村では、聴覚障害のあるなしに関わらず、人々が共に生活しているという。

「Directed Games」で参照されているのは「被抑圧者の教育学」でも知られるブラジル人教育学者パウロ・フレイレのメソッドである。フレイレは、まさに『人がより良く言葉と共にある』ということを実践的にも哲学的にも体現しているように思う。同著では、「人間らしく存在するということは、世界を命名し、それを変えることである」とし、「世界を命名する人間同士の出合い」である『対話』が重要視されている。またそこでは、「ある者が他者にかわって命名する関係になってはならない」という前提が置かれる。本来的に、人は命名し、それを交わしたい存在なのだ。抑圧状況は、その欲望が沸き起こることを困難にさせる。

『分かり合うこと』も『分からなさ』も、絡まり合いながら、時にまとまり、時に転成していくということ。その終わりのないプロセスは、ほとんど『遊び』と同義になっていくように思うが、(そして、それはアートの存在とも重なっていくようにも思う)まさにジョナタス氏は「Directed Games」の観客に「遊びながら学ぶ」というゲームへの参加を期待しているように思われる。(「正しく観なければいけない」というのはとても息苦しいから、それぞれがまずは感じるままに心象をつかまえていければ良いのだと思う)。そして、永井氏がジョナタス氏へのインタビューの中で、言葉に先立つ感情やリズムや音に一つの注視を与えているのも、この映像作品が、映像作品として制作されたことの意味でもあり、私たちが映像として体感すべきことの理由でもあるように思う。シカゴ現代美術館のコミッションによるこの作品は、永井氏の仕事によりこれまでも日本で上映される機会はあったが、今回の上映会もとても貴重な機会。小冊子「Materia Prima」も合わせて販売予定です。是非、足をお運びください。

*ところで、ユネスコの教育開発国際委員会が一九七二年に発表した報告書『未来の学習(Learning To Be)』では、「持つための学習(learning to have)」ではなく、より人間らしく生きることを目的に据えた「存在するための学習(learning to be)」への転換が提起されている。そこでは、教育が学校のみで行われるものではなく、社会全体が教育の場となることが展望されていた。半世紀ほど前に謳われていた未来。あるべき学びはどのようなものなのか。考察や体感を深めていくための機会にもしたいと思います。

 

開催概要

日時:2024年1月8日(月祝)15:00〜18:30
会場:GAKU(渋谷PARCO 9F)
料金:1,000円(税込)
*当日会場で、現金にてお支払いください
定員:30名程度/事前申し込み優先
こちらのフォームよりお申し込みください

[主催]GAKU
[共催]Materia Prima

 

プログラム

15:00~ 開場:会場では『Materia Prima』の販売の他、関連書籍の閲覧コーナーを設ける予定です。ささやかなドリンクもご用意致します。是非、ゆっくりお過ごしください。

16:00~ オープニングトーク:「Directed Games」をより味わうためにも、本作品が持つバックグランドや、永井氏にとっての「学び」や「旅」が持つ意味について、お話を伺います。

17:00~ 作品上映

18:00~ アーティストトーク:ジョナタス氏も早朝のブラジルからオンラインでの登場が叶う予定です。作品どうだった?どう感じた?みんなで感想を交わします。

 

インフォメーション

https://materiaprima.site/materia-prima-vol-2/より

Materia Prima
何かを作ること。それは目の前に立ち現れる問いに対する答えをもとめて、考えて、手を動かして、自分以外の人と対話をして、試行錯誤することです。私たちはアート、デザイン、建築、映像、文学など、様々な分野のなかにどうにか収められた作品、と呼ばれるものに触れています。それは一連のものを作るプロセスのひとつの結果です。だけど、その結果に行き着くまでに切り捨てられていく考えや、失敗や、考えを発展するきっかけになる出来事は、結果以上に豊かなことがあります。「Materia Prima」はつくることのリアリティを共有する小冊子です。作家との対話やその人のポートレート、作品の制作プロセスや観客の反応など、多角的な切り口から、今の世界のあり方とそのなかで創造することのつながりを考えます。

Materia Prima Vol.2
ないところから発明すること、家族を超えた人間関係、困難をチャンスに変えていくこと。常に響き続けているリズム。ブラジル人アーティスト、ジョナタス・デ・アンドラーデの作品「Directed Games(原題: Jogos Dirigidos)」を題材にその制作プロセスを聞いていきます。
判型:片見出し8面折り製本 たとう紙/活版印刷
デザイン:サイトヲヒデユキ  制作編集:永井佳子
価格:1,500円(税抜き)

永井佳子
ロンドン大学ゴールドスミス校キュレーティング修士修了。2004年から2019年まで外資系企業で展覧会やイベントなどの文化事業、デザインディレクションを担当。Materia Prima主宰。作家や組織と協働してコンテンツを制作し、展覧会や書籍、レクチャーなどの形式で展開している。2020年より学び続けるためのトークイベントHamacho Liberal Arts(日本橋浜町ラボ)、2022年より京都の地下水のあり方と人々の営みをつなぐプロジェクト「Water Calling」を企画制作している。

 

Directed Games (Original title: Jogo Dirididos)
( Brazil / 2019 / Video / 2k / 5.1 sound / 57 min )
Commissioned by the Museum of Contemporary Art Chicago
ブラジル北東部の内陸部にある人口900人ほどの村、ヴァルゼア・ケイマーダには聴覚障害のある人々が多く住んでいる。この映像作品は18人の聴覚障害を持つ住人が村を駆け回って遊ぶようすや、自分たちの身の回りに起こった出来事を独自のジェスチャーで語る場面を仕立て、撮影したもの。デ・アンドラーデはブラジル人教育学者パウロ・フレイレの教育のメソッドを発展させ、聴覚障害者のジェスチャーの理解を促すような言葉を伴った映像を制作。そうすることで観客は彼らの意図を直感的に想像し、その言語を学び、世界観を体験しているような感覚を覚えていく。
https://vimeo.com/364406501

ジョナタス・デ・アンドラーデ (Jonathas de Andrade)
ジョナタス・デ・アンドラーデ(1982年ブラジル、マセイオ生まれ)はブラジルのレシフェを拠点に活動。フィクションとリアリティを並列させながらイメージやテキストを使った映像、写真、インスタレーションを展開し、言語学や文化人類学を横断しながら、真実、権力、欲望と社会的な幻想を問うような作品を作っている。代表的な個展「Eye-Spark」Maat, リスボン(2023)/Crac Alsace, フランス(2022)、「Pounce and Bounce 」Pinacoteca、サンパウロ(2023)、「Staging Resistance」Foam、アムステルダム(2022)、「One to One」シカゴ現代美術館(2019)、「The Fish」New Museum, ニューヨーク(2017)、「Museu do Homem do Nordeste」 MAR: Museum of Art, リオデジャネイロ (2014-2015)。主なグループ展 第16回イスタンブールビエンナーレ(2019); 「Artapes」 MAXXI: ローマ国立21世紀美術館、 ローマ (2018); 「Unfinished Conversations: New Work from the Collection」ニューヨーク近代美術館MoMA (2015); 2022年には第59回ヴェニスビエンナーレのブラジル館でソロプロジェクトを展示。

 

お問い合わせ

info@gaku.school(担当:佐藤)